RFIDの導入事例|導入前の課題や導入後の効果を解説!
RFIDの導入事例を業務別に整理した記事。設備予備品の棚卸、原材料管理と工程トレーサビリティ、輸送容器や重要文書の管理、出荷照合と現場受付の4領域で、メーカー公式に公表されている12社の取り組みを取り上げます。棚卸工数95%削減や容器管理費年300万円の削減など、数値で確認できる事例が中心です。

RFIDは、電波を使って複数のタグを一括で読み取る仕組みです。製造現場では、棚卸や工程管理の省力化を目的に導入が進んできました。この記事では、メーカーが公式に公開している導入事例を業務別に整理します。棚卸の工数を95%削減した飲料メーカーから、輸送容器の管理費用を年間300万円分なくした部品メーカーまで、効果が数値で確認できる事例を中心に取り上げました。あわせて、金属や液体による読み取り不良といったつまずきも並べています。
- 数値が大きいのは棚卸業務:20人で57時間かけていた作業が、1人で約2時間になった事例があります
- 用途は棚卸にとどまらない:工程管理、輸送容器、工具、重要文書、現場受付の事例が公開されています
- つまずきは電波の物理に集約される:金属、液体、読み取りすぎの3つが繰り返し課題に挙がります
公開されている効果は、棚卸のように作業時間が直接減る領域で数値が大きく出ています。一方で導入の難所は製品選びよりも現場環境の検証にあり、この点はどの事例でも共通していました。
この記事でわかること
RFIDの基礎知識
事例を読む前に、RFIDが何を自動化する道具なのかを押さえておきます。効果の大きさを左右するのは、この仕組みの性質です。ここでは読み取りの原理と周波数帯、バーコードとの違いを整理します。
一括読み取りが工数削減の源になる
RFIDの特徴は、タグに電波を当てて複数を同時に読み取れる点にあります。バーコードのように、1つずつ機器をかざす必要はありません。棚に並んだ数百点を、一度のスキャンで数えられる場面もあります。
この性質から、効果が出やすいのは対象点数の多い作業だと分かります。事例で報告されている削減率も、対象が数千から数万点の業務に集まっていました。逆に対象が数十点なら、削減できる時間は限られるでしょう。投資に見合うかどうかは、対象点数から先に見当をつけられます。
周波数帯によって読み取り距離が変わる
国内の産業用途では、主にHF帯とUHF帯が使われます。HF帯が届く距離は数センチから数十センチです。1点ずつ確実に読み取る用途に向いています。UHF帯は数メートル届くため、棚単位やゲート通過での一括読み取りに使われます。
棚卸や出荷照合の事例で多いのは、UHF帯を採用したケースです。ただし距離が伸びるほど、意図しないタグまで拾う可能性も高まります。この点は後半のつまずきの章で改めて取り上げます。事例を読むときは、どちらの帯を使っているかも確かめてください。
バーコードとの違いは視認性の要否にある
バーコードは読み取り部を光学的に見せる必要があります。箱の中に入っていたり、汚れていたり、向きが違えば読めません。RFIDは電波で通信するため、見えていなくても読み取れます。
この違いは、現場での運用負荷を大きく変えるものです。書類をキャビネットに入れたまま数えたり、部品を箱から出さずに照合できたりします。一方でタグ自体の単価は、バーコードラベルより高くなる点に注意が必要です。なお公開されている事例のうち、タグの単価に触れたものは1件だけでした。
編集部メモ:RFIDの本質は「見えなくても読める」点にあります。一括読み取りは、その副産物として得られる利点だと整理すると分かりやすくなるでしょう。事例を読むときは、対象物が見えにくい状態で保管されているかどうかに注目してみてください。
RFIDの事例を読むときのポイント
公開されている効果の数値は、比較の前提がそれぞれ違います。同じ「95%削減」でも、元の作業量が違えば意味は変わるはずです。次の3点を確かめながら読むと、自社に当てはめやすくなります。
- 削減率の分母になった時間を確かめる
- 対象物の素材と点数を確認する
- 導入前の記録方法まで読む
削減率の分母になった時間を確かめる
削減率だけを見ると、どの事例も大きな効果が出ているように読めます。しかし分母にあたる導入前の作業時間は、事例ごとに大きく違います。20人で57時間の作業と、4人で8時間の作業では、削減できる絶対量が別物です。
自社の現状値がどちらに近いかを先に見ておく必要があります。導入前の作業時間が短ければ、同じ削減率でも回収できる工数は小さくなるでしょう。率ではなく時間そのもので比べるほうが判断を誤りません。事例に出てくる人数と時間は、そのまま自社の条件と並べてみてください。
対象物の素材と点数を確認する
RFIDの読み取りは、対象物の素材に強く影響されます。金属は電波を反射し、水分や液体は電波を吸収してしまうためです。公開されている事例でも、この2つが導入時の難所として何度も出てきます。金属容器や液体を入れたドラム缶が課題として挙がった事例もありました。
点数も効果を左右する要素になります。一括読み取りの利点は対象が多いほど大きくなるためです。事例を読むときは、企業名や業種よりも、素材と点数が自社と近いかを見てください。
導入前の記録方法まで読む
効果の大きい事例には、導入前が手書きや目視だったという共通点があります。紙の台帳への転記やチェックシートの記入が、作業時間の大半を占めていたケースが目立ちます。読み取りの自動化に加えて、記録の自動化も効果に含まれているはずです。
すでに別のシステムで記録をデジタル化している場合は、事情が変わります。ある飲料メーカーは、設備保全管理システムを先に導入していました。それでも在庫の数え上げだけは、アナログのまま残っていました。
設備予備品・部品在庫の棚卸事例
数値が最も大きく出ているのが、設備予備品や部品在庫の棚卸です。対象点数が数千から数万にのぼり、従来は目視と手入力で数えていた業務が中心になります。ここでは削減率を公表している4社を取り上げます。
サントリープロダクツ
- 業界:食品・飲料製造
- 企業規模:大企業
- 導入前後の変化:導入前は約24,000点の予備品の棚卸を20人体制で実施し、合計約57時間を要していた。導入後は1人で約2時間で実施できるようになり、工数を95%削減した
同社は2021年に設備保全管理システムを導入し、予備品情報を一元管理する体制を整えていました。それでも在庫の数え上げは目視と手入力のままで、ヒューマンエラーが頻発していたそうです。管理方法をエリア担当者しか把握しておらず、業務が属人化していた点も課題でした。
RFIDの導入後は、担当者以外でも棚卸を実施できるようになりました。工数の削減幅が大きいのは、20人という投入人数が1人に減ったためです。作業時間そのものより、関わる人数の変化が効いた事例だと読めます。
長野FCLコンポーネント
- 業界:電子部品製造(EMS)
- 企業規模:従業員500名(2024年3月末現在)
- 導入前後の変化:導入前は約3万点の電子部品の棚卸に10名で約2日かかっていた。導入後は6名で2時間程度で完了し、棚卸の頻度を年4回から月1回へ増やせるようになった
同社が扱うのはチップリールという形状の電子部品です。目視中心の棚卸には多大な工数がかかり、在庫状況を正確に把握できませんでした。Excelでの部門別管理では、在庫数をリアルタイムに把握しにくい状態でした。熟練者と初心者で作業時間に大きな差が出る点も課題です。
注目したいのは、削減した工数を頻度の向上に振り向けている点です。年4回だった棚卸が月1回になり、在庫の透明性が上がったと公表されています。省力化ではなく管理精度の向上に使った例として参考になるでしょう。
Nichirin Vietnam
- 業界:自動車部品製造
- 企業規模:非公表(株式会社ニチリンの子会社)
- 導入前後の変化:導入前は予備品の棚卸に少なくとも4人で8時間を要していた。導入後は棚卸時間が30分に減少した
同社では入出庫情報の記録が手書きで管理されていました。ピッキング作業ではシステムによる照合が行われず、記入漏れや誤記によるミスの恐れがあります。棚卸は少なくとも4人で8時間という、労力のかかる作業でした。
導入後は入荷時に発行するRFIDラベルで部品の位置情報を記録する運用に変わりました。この事例は、棚卸単体ではなく入庫から出庫までを一続きに組み替えています。海外拠点での適用例として、国内と同等の効果が報告されている点も押さえておきたいところです。
株式会社サトー
- 業界:製造・保守サービス
- 企業規模:非公表(全国43拠点のサポートセンターを展開)
- 導入前後の変化:導入前は約2,000点の保守部品の棚卸に3.5日かかっていた。導入後は3時間に短縮され、持ち出し・返却処理も1部品あたり数分から数十秒になった
RFIDを提供する側が自社の保守部品管理に適用した事例です。ラベルプリンターの保守部品は海外工場で生産され、国内のパーツセンターに集約されます。各サポートセンターが管理する部品は約2,000点で、手作業の棚卸と手入力のミスが課題でした。
公表されているタグの読み取り率は100%に近い水準です。棚卸工数の削減に加えて、持ち出しと返却の処理時間も大きく縮まりました。対象点数が2,000点でも9割の削減を得られている点は、中規模の現場を検討する際の目安になります。
編集メモ:4社に共通するのは、導入前の作業が目視と手書きだった点です。削減率の中には2種類の効果が混ざっていると編集部ではみています。読み取りの自動化による効果と、記録の電子化で転記がなくなった効果です。自社の棚卸で転記作業がどれだけの比重を占めるかを見ておくと、期待値を見積もりやすくなるでしょう。
原材料管理と工程トレーサビリティの事例
棚卸の次に事例が多いのが、原材料の受け入れ検品と製造工程の進捗管理です。モノと一緒にタグを流すことで、どの工程に何があるかを自動で記録できます。ここでは日次業務の時間短縮と、工程データの取得という2つの狙いを持つ3社を取り上げます。
富士フイルムマテリアルマニュファクチャリング
- 業界:化学・高機能材料製造
- 企業規模:非公表(富士フイルムグループ)
- 導入前後の変化:導入前は入荷作業に1日3時間、検品作業に1日2時間かかっていた。導入後は入荷が1時間、検品が5分になった
同社が担うのはインスタントカメラ用フィルムや高機能材料の生産です。品質管理の要となる原材料管理では、多様な品目の重量チェックが毎日発生していました。検品作業だけで年間300時間以上を費やしていたと公表されています。
扱う原材料はドラム缶に入った液体から固体、粉体まで形状がさまざまでした。それでも現場の負担を抑えるため、1種類のラベルですべてを管理する要件を置いています。タグの単価については、1枚あたり十数円というコストは高くないと評価されていました。
安川電機
- 業界:電機(サーボモータ・産業用ロボット製造)
- 企業規模:大企業
- 導入前後の変化:導入前は工程ごとに個体情報を手書きで記入しており、記入間違いや記入漏れが発生していた。導入後は個体情報を自動で読み取ってペーパーレス化し、商用試験工程の自動化により24時間稼働を実現した
同社は現場データの活用による生産効率の向上を掲げ、工程管理と商用試験の自動化を進めていました。製品の個体識別ができる手段としてRFIDを選んでいます。タグを組み込んだ定盤と無人搬送車を連動させ、各工程のリーダライタで情報を読み取る構成です。
効果として挙げられているのは、時間の短縮ではなく無人化の実現です。人手が必要だった商用試験工程で、ウエイトや中継コネクタの脱着を自動化できました。個体を機械が識別できるようになったことが、自動化の前提を満たしています。
竹内製作所
- 業界:建設機械製造
- 企業規模:非公表
- 導入前後の変化:導入前は各工程の着手と完了を紙の生産指示書に手書きで記入しており、進捗をリアルタイムに把握できなかった。導入後は指示書をかざすだけで着完データが取得でき、パーツの製造ペースを最適化できるようになった
同社の生産ラインでは、別途製造したパーツを人が手で取り付けて組み上げます。ラインの進捗が共有されていなかったため、パーツの製造ペースが合わず造り過ぎが起きていました。余ったストックがライン横に山積みされる状況が続いていました。
製品とともに流れる生産指示書にタグを付け、工程ごとに着完情報を取る構成を選んでいます。進捗が見えるようになった結果、ライン横の積み上がりも改善しました。在庫削減だけでなく、現場の安全衛生にも寄与したと報告されています。
編集メモ:この3社の狙いは、棚卸の事例とは性格が違います。富士フイルムは日次業務の時間短縮を、安川電機と竹内製作所は工程データの取得を目的にしていました。編集部では、後者のようにデータ取得を目的とする場合、削減時間では効果を測りにくくなると考えています。導入の目的をどちらに置くかで、評価する指標も変わってきます。
輸送容器・工具・重要文書の管理事例
製品や部品そのものではなく、それを扱う道具や記録物を管理対象にした事例もあります。所在が分からなくなると別のコストが発生する対象が中心です。ここでは容器、治具、文書という3つの対象を取り上げます。
NTN
- 業界:機械部品製造(ベアリング)
- 企業規模:大企業
- 導入前後の変化:導入前は容器の所在が可視化されておらず、生産計画への悪影響が年5回、容器の追加購入や臨時便輸送の費用が年300万円発生していた。導入後は生産計画の変更や出荷遅延が0回、追加費用が0円になった
対象になったのは、製品を出荷するための鉄かごやパレットです。同社の磐田製作所等速ジョイント工場では、容器を42種類、約5,300台運用しています。容器は高価で保管場所も取るため、必要最小限の数で回す運用が前提でした。
所在が分からないと、容器を探す作業や代替容器への品番変更が発生します。納期に間に合わせるための特別便の手配も必要でした。所在を可視化した結果、こうしたイレギュラーな対応が一掃されています。
川崎重工業(重要文書管理)
- 業界:輸送機器・重工業
- 企業規模:大企業
- 導入前後の変化:導入前は8カ所の書庫に保管する約7,000点の重要文書の棚卸に、1回あたり約240時間を要していた。導入後は約8時間になり、作業費用も従来の10分の1になった
棚卸はヒューマンエラーを防ぐため2名体制で行われていました。キャビネットから現物を取り出し、台帳と付け合わせて押印する運用です。年4回の実施で1回に約240時間かかり、担当者の負担が課題になっていました。
文書量が将来14,000点に倍増する想定も、検討を始めた理由になっています。公表されている費用面の効果は、タグや機器を含めても十分回収できる水準でした。棚卸時間が30分の1になった一方で、金属製キャビネット固有の制約も残っています。
リコーインダストリー
- 業界:電子機器製造
- 企業規模:非公表(リコーグループ)
- 導入前後の変化:導入前は備品と治具を1つずつ点検し、チェックシートに記入するため毎日約50分かかっていた。導入後は5分に短縮され、1か月で1工程あたり約14,000円の削減を計測した
対象は日常点検で確認する備品と治具です。1つずつの点検とチェックシートへの記入が、毎日約50分を占めていました。タグの一括読み取りとアプリの自動入力に置き換えた結果、5分まで縮まりました。
この事例が参考になるのは、効果を金額で公表している点です。作業にかかっていた人件費と用紙代を換算し、1か月で1工程あたり約14,000円としています。工程数を掛ければ、投資判断に使える金額を見積もれます。削減額まで公表している事例は、公式ページ全体でも多くありません。
編集メモ:この章の3社は、管理対象が製品そのものではありません。それでも効果が金額で出ているのは、所在不明が別の支出を生む構造になっているためだと考えられます。容器の追加購入、特別便の手配、点検にかかる人件費と用紙代がその例です。自社で同じ構造の支出が発生していないかを洗い出すと、投資対効果を見積もりやすくなります。
出荷照合と現場受付の事例
最後に、ミスの防止と待ち時間の解消を狙った事例を取り上げます。どちらも効果の出方が特徴的で、件数がゼロになるという形で表れました。照合と受付という2つの場面を見ていきます。
TBロジスティクス
- 業界:物流(製造業向け)
- 企業規模:非公表
- 導入前後の変化:導入前は目視による格納とピッキングのため誤出荷が年4〜5件発生し、業務の習熟にOJTで2週間かかっていた。導入後は誤出荷が0件になり、習熟期間は3日、出荷時の確認作業は2人から1人になった
導入前は製品を格納する際に照合できる手段がなく、人の目に頼っていました。客先に対して年間4〜5件の誤出荷が出ており、後工程にも影響が及んでいました。出荷時の順番確認は、2人1組で読み上げる運用です。
習熟期間の短縮も見逃せない効果です。従来は製品の保管場所を記憶する必要があり、熟練者がOJTで2週間付く体制でした。場所を覚える必要がなくなり、3日で習得できるようになっています。熟練者を新人の教育に割く時間も縮まりました。
三菱ケミカル
- 業界:化学
- 企業規模:大企業
- 導入前後の変化:導入前は定修工事の安全指示書の受付に1人あたり30分かかり、協力会社の順番待ちが発生していた。導入後は受付が1人あたり数十秒で完了し、4プラント合計で6,181時間の業務削減を達成した
定修工事は法定検査や設備修理を兼ねた大規模な工事です。期間は約40日間で、多い時は1日に3,000人を超える協力会社の作業員が従事します。毎朝の着工許可の受付で順番待ちが発生し、工事開始が遅れていました。
受付に設置したテーブル型リーダライタで、複数の指示書を一括で読み取る構成です。公表されている削減量は1日あたり185時間、工事期間全体で6,181時間でした。安全確認の業務フローは維持したまま、日報のデジタル化まで含めて見直しています。
編集メモ:この2社の効果は、時間の削減率よりも件数の変化に価値があると編集部ではみています。誤出荷が0件になった事例と、順番待ちが解消した事例です。照合や受付は、結果が成功か失敗かで決まる業務です。作業時間より発生件数のほうが、指標として扱いやすくなります。
RFIDの事例を自社のケースに落とし込む
公開されている数値をそのまま自社の期待値にするのは避けたほうがよいでしょう。削減率は各社の従来手法との比較値であり、前提が違えば結果も変わります。ここでは自社の条件に引き寄せて考える手順を整理します。
現状の作業時間を先に測る
最初に行いたいのは、対象業務の現状値を測ることです。何人で何時間かかっているかを記録しておかないと、導入後の効果を比較できません。事例の削減率は、この分母があって初めて意味を持ちます。
測る対象は読み取り作業だけに限りません。台帳への転記、チェックシートの記入、結果のデータ化まで含めて計測してください。効果の大きい事例では、この付随作業が削減時間の相当部分を占めていました。社内で投資を説明する場面でも、この記録が根拠になります。
対象物の素材と個数を一覧にする
次に、タグを貼る対象物を素材ごとに分類します。金属製か、液体を含むか、樹脂や紙かで、選ぶタグが変わってきます。ある部品メーカーは、金属容器での読み取り距離を確保する必要がありました。40種類以上のタグから、条件に合うものを選んでいます。
個数も同時に数えておく必要があります。一括読み取りの効果は対象が多いほど大きくなるためです。素材の種類が多く個数が少ない場合は、タグ選定の手間に対して見返りが小さくなる可能性があります。
本番に近い環境で読み取り検証を行う
検証は、実際に運用する場所と条件で行ってください。工場内の無線機器との干渉や、棚の材質による反射は、現場でしか確認できません。ある電機メーカーでは、タグの埋め込み深さと向きを詰めるのに1年を費やしました。
検証では置き方や取り付け場所も同時に決めます。対象物の配置を整理したことで読み取り精度が上がった事例も公開されています。機器の選定だけでなく、運用ルールまで含めて固めておく必要があるでしょう。本番に近い環境で検証することは、提供側も推奨しています。
事例からわかる成功事例の共通点
効果を数値で公表している事例には、いくつかの共通した進め方がみられます。特徴が出ているのは、製品の選び方よりも導入前の準備と対象業務の選定です。次の3点が共通項として挙げられます。
- 導入前の作業時間を数字で把握していた
- 対象物に合うタグを選び抜いていた
- 読み取り以外の業務も同時に見直していた
導入前の作業時間を数字で把握していた
削減率を公表できている企業は、導入前の作業量を具体的に記録していました。20人で57時間、10名で約2日、4人で8時間という形で人数と時間が揃っています。この記録があるからこそ、効果を検証できています。
現状値がなければ、導入後に効果を説明する材料も残りません。社内で投資の妥当性を示す場面でも、比較対象がないと苦しくなるでしょう。検討の初期段階で計測しておくことをおすすめします。事例の数値も、この形で書かれているものほど信頼して読めます。
対象物に合うタグを選び抜いていた
成功している事例では、タグの選定に相当な工数をかけています。ある部品メーカーは40種類以上から検討し、ある物流会社はサイズ違いを10種類用意して選びました。金属対応タグや耐熱タグを採用した事例も複数あります。
選定が難しい場合は、運用側の工夫で補う方法もあるでしょう。容器1台に対して2面へ同一のタグを貼り、読み取りやすさと精度を担保した事例が公開されています。タグの性能だけで解決しようとしない姿勢が共通していました。
読み取り以外の業務も同時に見直していた
効果が大きい事例は、読み取りの自動化だけで終わっていません。台帳の電子化、アプリでの自動入力、既存システムとの連携まで含めて組み替えています。ある化学メーカーは日報のデジタル化と受付管理を同時に進めました。
この同時見直しが、削減時間を押し上げています。読み取りだけを速くしても、その後の転記やデータ化が残れば全体の時間は縮みません。業務フロー全体を対象にするかどうかで、得られる効果が変わってきます。
事例から学ぶつまずきやすいポイント
メーカー公式の事例には、導入時に苦労した点も書かれています。RFIDの難所は、電波の性質と現場環境の組み合わせに集まっていました。次の4点は繰り返し登場する課題です。
- 金属に囲まれると電波が届かない
- 液体や水分が電波を吸収する
- 周囲のタグまで読み取ってしまう
- 検証を省くと運用開始後に手戻りが出る
金属に囲まれると電波が届かない
最も多く報告されているのが、金属による読み取り不良です。ある電機メーカーでは、製品のアルミ筐体に囲まれると情報を全く読めなくなりました。解決策として、製品を載せる定盤にタグを埋め込み、樹脂で蓋をする方法を採っています。
回避策は運用の工夫でも組めます。ある重工メーカーの文書管理では、金属製キャビネットの引き出しを閉じた状態では読めませんでした。開けた状態で一括読み取りする運用に変えることで成立させています。
液体や水分が電波を吸収する
液体は電波を吸収するため、読み取り距離が落ちます。ある化学メーカーでは、金属製ドラム缶と液体で保管する材料の読み取りが懸念になりました。複数のラベルを使い分けられない要件だったため、構造で解決する方法を選んでいます。
採用されたのは、ラベルの半面に粘着部を置き、ICチップ側を非接触に配置する形です。この工夫で、1種類のラベルによる一括管理という要件を満たしました。液体を扱う現場では、タグの構造まで含めて検討する必要があるでしょう。
周囲のタグまで読み取ってしまう
読み取り距離が伸びることで起きる逆方向の失敗もあります。特定の対象だけを読みたいのに、周囲のタグまで拾ってしまう現象です。ゲートやトンネル型の設備で読み取り範囲を区切ることが対策になります。
電波の出力や角度の調整も必要になります。ある包装材メーカーは、視認性を確保するためアルミパネルから電波反射パネルへ変更しました。アンテナの角度、出力、電波吸収パネルの配置を現場に合わせて調整した事例も公開されています。
検証を省くと運用開始後に手戻りが出る
検証の不足は、プロジェクトの中断につながります。ある重工メーカーの工具管理では、現場主導で始めた検証が読み取り精度の不安定さで止まりました。ハンディリーダーの制御端末のOSに制限があった点も要因でした。
その後は技術部門が主導し、進まなかった原因の検証から再設計しています。画像認識やQRコードなど他の手段も含めて検討し直し、金属対応タグの採用に至りました。現場主導の試行が悪いわけではなく、止まった原因を検証し直した点が要点です。検証は本番に近い環境で行うことが要ります。
まとめ
RFIDの導入事例で数値が大きく出ているのは、対象点数の多い棚卸業務でした。一方で効果の性格は用途によって変わります。工程管理ではデータの取得が目的になり、照合や受付では発生件数の変化が指標になっていました。自社で何を測るのかを先に決めておく必要があります。
導入の難所は製品選びよりも現場環境の検証にありました。金属、液体、読み取りすぎという3つの課題は、どの事例でも形を変えて現れています。検討を始める際は、現状の作業時間と対象物の素材を先に整理してください。製品ごとの違いはRFIDシステムの比較記事で解説しています。費用の考え方はRFIDシステムの費用記事をご覧ください。
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よくある質問
QRFIDの導入でどれくらいの効果が出ていますか?
数値が最も大きいのは棚卸業務です。サントリープロダクツは約24,000点の予備品の棚卸を20人体制で約57時間かけていましたが、導入後は1人で約2時間になり工数を95%削減しました。長野FCLコンポーネントは10名で約2日かかっていた棚卸が6名で2時間程度になり、Nichirin Vietnamは4人で8時間から30分に減っています。棚卸以外では、川崎重工業の重要文書管理が1回240時間から約8時間へ、三菱ケミカルの工事受付が1人30分から数十秒に短縮されました。
Qどの業務から着手するのがよいですか?
対象点数が多く、これまで目視と手書きで記録していた業務が候補になります。一括読み取りの利点は対象が多いほど大きくなるためです。効果を公表している事例は対象点数が2,000点から3万点の範囲に集まっており、株式会社サトーは約2,000点の保守部品で9割の削減を得ています。ただし削減時間には読み取りの自動化だけでなく、台帳への転記やチェックシート記入がなくなった分も含まれています。自社でその付随作業がどれだけの比重を占めるかを先に測ってください。
Q金属や液体があるとRFIDは使えないのでしょうか?
使えますが、対策が必要です。安川電機では製品のアルミ筐体に囲まれると情報を全く読めず、製品を載せる定盤にタグを埋め込んで樹脂で蓋をする方法に行き着きました。この検証には1年を要しています。川崎重工業の文書管理では金属製キャビネットの引き出しを閉じた状態では読めないため、開けた状態で一括読み取りする運用に変えて成立させました。液体については、ラベルの半面に粘着部を置きICチップ側を非接触に配置する構造で対応した事例が公開されています。
Qタグの単価はどれくらいですか?
公式の導入事例で単価に触れているものはほとんどありません。確認できたのは富士フイルムマテリアルマニュファクチャリングの1件で、1枚あたり十数円というコストは削減効果を考えれば高くないと評価されていました。なお金属対応タグは通常のタグより割高になります。リコーインダストリーは効果を金額で公表しており、日常点検の削減で1か月あたり1工程約14,000円としています。工程数を掛ければ投資判断の材料になりますが、単価の相場は公式情報からは把握しにくい状況です。
Q導入でつまずきやすいのはどこですか?
4つあります。1つ目は金属による読み取り不良で、最も多く報告されています。2つ目は液体や水分による電波の吸収です。3つ目は逆方向の失敗で、読み取り距離が伸びた結果、周囲のタグまで拾ってしまう現象が起きます。4つ目は検証不足です。川崎重工業の工具管理は現場主導で始めた検証が読取精度の不安定さとハンディリーダーの端末OSの制限で中断し、技術部門が原因から再設計しています。いずれも製品選定ではなく現場環境の問題であり、本番に近い条件での検証が要ります。
