構造解析ソフトの導入事例|導入前の課題や導入後の効果を解説!
構造解析ソフト(CAE)の導入事例を業種別に整理した記事。自動車・二輪、建機・重機・造船、鉄鋼・素材・建築構造の各分野に加え、大規模モデルの計算時間を公表している事例を取り上げます。効果は5倍から10倍の高速化として示されますが、短縮されているのは前処理工程です。

構造解析ソフトは、荷重を受けた部品の変形と応力を計算するCAEツールです。製造業では、試作と実機試験の回数を減らす目的で使われてきました。この記事では、開発元が公式に公開している導入事例を業種別に整理します。シミュレーション時間を80%短縮した自動車部品メーカーから、1両あたり約12,000mの溶接線を評価した鉄道車両メーカーまで、条件の幅が読み取れる事例を取り上げました。あわせて、メッシュ作成の手間や実測との乖離といったつまずきも並べています。
- 効果は時間短縮の形で出る:5倍から10倍の高速化、あるいは80%から93%の短縮という形で公表されています
- 短縮の対象は前処理に集まる:メッシュ作成とモデルの簡略化にかかる工数が削減の中心になります
- 難所は人とモデル化の判断にある:解析を担える人材の育成と、簡略化の見極めが課題として挙がります
公開されている効果は、計算そのものの速さではなく準備工程の短縮に集まっていました。一方で導入の難所はソフトの性能ではなく、モデル化の判断と担い手の側にありました。
この記事でわかること
構造解析ソフトの基礎知識
事例を読む前に、構造解析が何を計算する道具なのかを押さえておきます。効果の出方は、この計算に必要な準備工程の性格から見当がつくものです。ここでは基本の仕組みと解析の種類、精度を左右する要素を整理します。
荷重による変形と応力を数値で求める
構造解析は、対象の形状を細かな要素に分けて計算する手法です。有限要素法と呼ばれ、荷重や拘束の条件を与えて変形量と応力分布を求めます。実機を壊す試験の代わりに、画面上で強度を確かめられる点が特徴です。
この性質から、効果が出る条件も見えてきます。試作と破壊試験を何度も繰り返していた開発ほど、削減できる工数が大きくなりました。ある二輪メーカーは、実機の強度を調べる試験に膨大な時間と試作部品を要していたと述べています。
解析の種類によって必要な機能が変わる
構造解析は、解く現象によっていくつかの種類に分かれるものです。剛性や強度を見る静解析、繰り返し荷重による疲労寿命の評価、固有振動数を求める振動解析が代表的です。温度差による熱応力や、衝突・落下時の挙動を解く動解析も含まれます。
どの種類を解くかで、必要な機能が変わってきます。ゴムのような材料は非線形の扱いが要りますし、複合材には積層の設定が必要です。事例を読むときは、企業名より先に解析の種類を確かめてください。自社が解きたい現象は、検討の最初に書き出しておくとよいでしょう。
精度はモデル化の前提に左右される
計算結果の妥当性は、入力した前提で決まってきます。形状をどこまで簡略化するか、材料の物性値をどう与えるかが結果を変えます。ある大学の研究では、初期のモデルで関節を過剰に硬く設定していた点が後から見直されました。
そのため、実測との照合を工程に組み込む事例が目立ちます。ある自転車メーカーは、解析で求めた荷重が実測のひずみと2%以内で一致することを確認していました。数値の大小より、照合まで書かれているかを見るほうが参考になるでしょう。
編集部メモ:構造解析の効果は「計算が速い」ことではありません。公開されている削減率の多くは、メッシュ作成やモデル簡略化という準備工程の短縮によるものです。編集部では、製品を比べる際も計算速度より前処理の機能に目を向けるほうが実務に近いとみています。
構造解析ソフトの事例を読むときのポイント
公開されている効果の数値は、比較の対象が事例ごとに違います。同じ「10倍」でも、何と比べた数値かで意味が変わるものです。次の3点を確かめながら読んでください。
- 短縮された対象がどの工程かを確かめる
- 解析の種類を見分ける
- 実測との照合まで書かれているかを見る
短縮された対象がどの工程かを確かめる
効果の数値が指す対象は、事例ごとに違います。ある自動車部品メーカーは80%短縮を公表しています。コンポーネントのシミュレーション時間が5日から1日になった数値です。ある重機メーカーの10倍は、メッシュ作成をなくしたことによる高速化でした。
この違いは、自社に当てはめる際に影響します。メッシュ作成がボトルネックでない現場では、同じ倍率は再現しません。自社のどの工程に時間がかかっているかを先に把握してください。
解析の種類を見分ける
事例に出てくる解析の種類は多岐にわたります。剛性や強度を見る事例と、疲労寿命を評価する事例では必要な機能が別物です。振動や熱応力、衝突を扱う事例も公開されています。
使われている製品名だけで判断しないほうがよいでしょう。ある自動車メーカーの事例では、剛性解析にリアルタイムCAEの製品が使われていました。詳細な解析に使う製品とは、役割が分かれています。同じ開発元の製品でも、用途が違えば比較の対象になりません。
実測との照合まで書かれているかを見る
解析の価値は、実機の挙動を再現できるかどうかで問われます。そのため、実測との照合に触れている事例のほうが信頼して読めます。ある二輪メーカーは、樹脂カバーの座屈部位が試験結果と合ったことを確認してから設計変更に進みました。
照合の精度を数値で示す事例もあります。ある自転車メーカーは、算出した荷重履歴が実測のひずみと2%以内で一致する仕組みを採用しました。ある鉄道車両メーカーは、140か所を超える位置でひずみを計測しています。
自動車・二輪メーカーの事例
自動車と二輪の分野は、公開されている事例が最も多い領域です。量産前に強度と耐久性を確かめる必要があり、試作の回数が開発期間に直結します。ここでは狙いの異なる3社を取り上げます。
デンソー
- 業界:自動車部品
- 企業規模:非公表(公式記載は「2022年の連結純売上高は451億ドル」)
- 導入前後の変化:導入前はCAEに時間がかかり、部門間のコミュニケーションにも多くの時間を要していた。導入後はコンポーネントのシミュレーション時間が80%短縮され、5日からわずか1日になった
同社が課題として挙げていたのは、製品設計プロセスのなかでCAEが長い点でした。CADと解析を別のツールで行うため、データを移す作業が発生していました。解決策として、CADと解析を統合したプロセスとCAEテンプレートを整備しています。
効果は時間の短縮だけにとどまりません。設計上の問題を速やかに特定して修正できるようになり、全体的な品質も向上したとされています。手作業やデータ変換に伴うエラーも排除されました。
ヤマハ発動機
- 業界:二輪(オフロードモーターサイクル)
- 企業規模:非公表
- 導入前後の変化:導入前は対策箇所を特定するために多くの実機試験が必要で、膨大な時間と試作部品を消費していた。導入後は解析結果が試験結果と合うことを確認し、ラジエータ樹脂カバーの設計案を画面上で比較できるようになった
課題は、競技中の低速転倒で生じる軽微な損傷の蓄積でした。車体が地面に当たる衝撃でラジエータが変形し、冷却性能の低下や冷却水漏れにつながります。樹脂カバーの形状や厚み、ブラケット、ボルト位置の検討に実機試験が必要でした。
解析からは、部品の役割を切り分けた知見も得られています。通常のラジエータとフィンのないラジエータを比べる試験も行われました。フィンが反力の約50%を占めていることが分かっています。
Sujan ContiTech
- 業界:自動車向け防振部品
- 企業規模:非公表
- 導入前後の変化:導入前は自動車メーカーごとの仕様に合わせた個別開発が必要で、チーム間の反復も多かった。導入後は複雑な高圧ダイキャスト部品のリードタイムが約40%短縮され、設計サイクルも約20%短くなった
同社の製品はカタログ品ではなく、車種ごとに要求から定義する受注設計です。この個別性が製品の複雑さを生み、市場投入の速さとの両立が課題でした。設計から解析までを1つのプラットフォーム上で扱う構成に切り替えています。
金属ブラケットの線形応力解析を先に行い、最後に非線形解析を実施する流れを採りました。メールや内部調整といった付加価値のない作業も30%減ったと公表されています。ゴムの非線形性のため、形状や剛性の最適化には相当な時間を要したそうです。
編集メモ:この3社は、短縮した対象がそれぞれ違います。デンソーはCADと解析のデータ受け渡し、ヤマハ発動機は実機試験の回数でした。Sujan ContiTechは解析の順序と部門間の調整です。編集部では、どこがボトルネックだったかを読み取らないと数値を自社に当てはめられないと考えています。
建機・重機・造船メーカーの事例
大型の構造物を扱う分野では、規模と局所の両立が課題になります。全体は数十メートルでも、評価したい応力集中はミリ単位で生じるためです。ここでは規模の問題に向き合った3社を取り上げます。
コマツ
- 業界:建設・鉱山機械
- 企業規模:非公表(公式記載は「建設、鉱業、林業、重機の世界有数のグローバルメーカー」)
- 導入前後の変化:導入前は予知保全やエンジン寿命を予測する効率的な方法がなく、フルスケールのシミュレーションには計算コストと時間がかかっていた。導入後は従来のCAE手法よりも5倍高速に熱機械疲労を評価でき、設計寿命を1分以内で評価できるようになった
目的は、エンジン部品が故障するタイミングを既存の入力データから予測することでした。フルスケールの解析では計算負荷が重いため、次数低減モデルを導入する方針を採りました。計算負荷の小さいモデルで結果を早く得る狙いです。
この選択が、効果の性格を決めています。流体シミュレーション用の次数低減モデルを用意しました。必要な構造データを、当初の想定より容易に作成できたとされています。計算を速くしたのではなく、計算する対象を軽くした事例だと読めます。
タダノ
- 業界:重機(クレーン・高所作業車)
- 企業規模:非公表(公式記載は「日本を本拠地とする最大のクレーン・高所作業車メーカー」)
- 導入前後の変化:導入前はメッシュ作成が時間とリソースのボトルネックになり、有限要素法が求める簡略化にも手間がかかっていた。導入後はメッシュ作成の工程そのものがなくなり、シミュレーションのプロセスが10倍高速になった
課題として挙げられていたのは、規模と局所の隔たりです。同社のクレーンは100mを超えて伸びる一方、評価したい応力集中は局所に生じます。全体を粗く解けば局所が見えず、局所を細かく解けば全体が重くなります。
採用したのはメッシュを作らない解析手法でした。複雑な細部を削らずに、アセンブリ全体のモデルをそのまま解析できるようになりました。精度と分解能も向上し、局所の応力集中を捉えられたとされています。
住友重機械マリンエンジニアリング
- 業界:造船・洋上プラント
- 企業規模:非公表(公式記載は前処理用に4ライセンス、ソルバー用に1ライセンスを運用)
- 導入前後の変化:導入前は表計算ソフトを使っており、多くの時間と人手を要していた。導入後は1人で多くのパターンを検討できるようになり、時間の短縮と工数の削減を実現した
同社の課題は、設計と解析の両方が分かる人材の育成でした。船級協会の規則の変更や顧客要求への柔軟な対応も求められていました。静解析のモデルは50,000節点と120,000要素です。固有振動解析のモデルは10,000節点と25,000要素でした。
効果として挙げられているのは、時間だけではありません。図面と解析の両方を理解する設計者が増えた点、新入社員の設計勘が養われた点が公表されています。解析の精度と品質の向上も報告されていました。
編集メモ:この章の3社は、規模の問題を別の方法で回避しています。コマツは次数低減モデル、タダノはメッシュレスの手法を選びました。住友重機械マリンエンジニアリングは人材の育成です。編集部では、大きな構造物を扱う場合、計算機の性能を上げるだけでは解決しないとみています。モデルをどう扱うかの判断が先に来るでしょう。
鉄鋼・素材・建築構造の事例
素材や建築構造の分野では、扱う対象が製品ではなく設備や建物になります。既存設備の補修や、法規制に沿った耐震性の検証が目的になる点が特徴です。ここでは対象の性格が異なる3組織を取り上げます。
Hyundai Steel
- 業界:鉄鋼
- 企業規模:非公表(公式記載は「製鉄所内に大小46の工場がある」)
- 導入前後の変化:導入前は設備の亀裂や振動、熱変形への対応で1工場あたり1〜2件の問題が起きても合計100件を超える解析と設計作業が必要だった。導入後は担当者の実感として作業速度が2〜3倍に向上し、チームの構造検討業務の80%をこのソフトで処理している
対象は製品ではなく製鉄設備です。設備の多くは10年以上が経過しており、亀裂や振動、熱変形が現に発生している状況でした。多数の人の安全に関わるため、解析と設計の作業量が膨らんでいました。
選定理由として挙げられているのは、線形静解析と非線形解析の安定性です。マルチコアを使って解析速度を変えられる点も評価されていました。公表されている倍率は担当者の実感として語られたもので、測定値ではありません。
Zonneveld Ingenieurs
- 業界:建設・構造エンジニアリング
- 企業規模:非公表(35年にわたり耐荷重鋼およびコンクリート構造の設計に従事)
- 導入前後の変化:導入前は騒音規制のため重量コンクリート壁を使う必要があり、地震時の横揺れが大きくなる問題があった。導入後は地下の地盤から建物までを3次元でモデル化し、複数の地震波に対する反応を事前に検証できるようになった
オランダでは騒音規制が厳しく、集合住宅には重量コンクリート壁が一般的に使われます。ただしコンクリート壁は硬質なため、鋼桁による柔軟な壁より地震時の横揺れが大きくなります。防音と耐震という2つの要求が衝突する構図でした。
解析では地表から約30m下の地震信号を適用しました。実際の地震記録に基づいて、周波数と振幅、振動方向が異なる7つの基準信号を与えています。免震装置は30個のスライダーとしてモデルに組み込まれました。
Plastic Technologies
- 業界:プラスチック容器の設計サービス
- 企業規模:非公表(1985年創業、年間約500件のデザイン開発を手掛ける)
- 導入前後の変化:導入前は軽量な材料構成と厳しい性能要件を両立させる設計案の創出が難しかった。導入後はボトルの軽量化が上面荷重強度にどう影響するかを事前に把握でき、設計の取り組みを早い段階で見直せるようになった
同社が扱うのはPETボトルなどのパッケージ設計です。軽量化と強度の両立が求められ、条件の組み合わせが膨大になります。荷重や積み重ね条件で座屈しないかを、圧力を変えながら確認する必要がありました。
公表されている知見は具体的です。重量を17gから14gに軽量化した場合も調べています。上面荷重強度が19lbfから12lbfへ、ほぼ半減することが分かりました。実際に両方のサンプルを成形して検証したところ、予測は観測値の90%以内に収まっています。
編集メモ:この章の3組織は、解析の目的が製品開発ではありません。既存設備の補修、法規制への適合、設計サービスの提供がそれぞれの目的でした。編集部では、こうした用途では効果を時間短縮で測りにくくなると考えています。Hyundai Steelは業務比率で効果を語っています。Plastic Technologiesが予測精度で語るのも同じ理由でしょう。
大規模モデルに向き合った事例
最後に、モデル規模と計算時間の実績値を公表している事例を取り上げます。構造解析の負荷を具体的に示す数値は、公式情報でも多くありません。ここでは規模を明示している3社を見ていきます。
MAHLE Powertrain
- 業界:自動車エンジン開発
- 企業規模:非公表
- 導入前後の変化:導入前は排気量を半減させながら同等の性能を出す設計目標があり、耐久性の検証が課題だった。導入後は熱応力と疲労の解析で設計を検証し、2.4リッターV6から1.2リッター直列3気筒への置き換えに取り組んだ
目標は排気量を50%削減し、結果として燃料消費を30%削減することでした。性能は従来と同等に保つ前提です。出力を上げるほど、エンジンの堅牢性と耐久性の技術的難度が上がります。
この事例が参考になるのは、計算時間を公表している点です。シリンダーヘッドとブロックのアセンブリ解析は大規模です。1.01M要素、1.72M節点、8.8M自由度に達しました。この解析の実行時間は12日以上、290時間でした。
Stadler Rail
- 業界:鉄道車両製造
- 企業規模:非公表(2階建て車両KISSは170編成以上を受注)
- 導入前後の変化:導入前は衝突安全性と軽量化の両立に加え、膨大な溶接線の疲労評価が課題だった。導入後は詳細かつ効率的なモデルで検証を進め、品質と安全性を保ちながら開発期間を短縮した
対象は2階建て車両のKISSです。車体にはMIG溶接が多数使われ、中間床には摩擦攪拌接合が適用されています。1両あたりの溶接線は約12,000mに及ぶため、疲労評価の対象が膨大になります。
モデル規模は300万要素を超え、自由度は1,200万に達しました。静解析では45種類の荷重ケースを検討し、衝突解析は衝撃後0.2秒を対象にしています。実機試験では140か所を超える位置でひずみゲージによる計測を行いました。
Trek Bicycles
- 業界:自転車製造
- 企業規模:公式記載あり(全世界の従業員1,600人、年間160万台を販売。北米最大のカーボン自転車メーカー)
- 導入前後の変化:導入前は重量と剛性を目標値に収めるため、設計の反復と多くのリソースを費やしていた。導入後は実荷重を同定する仕組みを取り入れ、設計反復と試作破壊のサイクルを削減した
課題はプロライダーによる極限的な荷重条件の把握でした。同社の選手は72フィートの渓谷を飛び越えるような走りをします。設計目標を満たすには、こうした荷重を正確に知る必要がありました。
採用した仕組みでは、算出した荷重履歴が実測のひずみと2%以内で一致します。これにより、あらゆる時点で実測と整合した荷重を解析に与えられるようになりました。年間で数十構成、各構成に複数の荷重ケースを扱う規模です。
編集メモ:この章の数値は、効果ではなく負荷を示すものです。290時間という実行時間や300万要素という規模は、導入検討の際に見落とされやすい情報でしょう。編集部では、計算環境の見積もりにこうした実績値を使うのが実務的だと考えています。削減率と併せて、規模の数値も確認してみてください。
構造解析ソフトの事例を自社のケースに落とし込む
公開されている倍率を、そのまま自社の期待値にするのは避けてください。削減の対象がどの工程かによって、再現するかどうかが変わります。ここでは自社の条件を整理する手順を示します。
現在のボトルネックがどの工程かを特定する
最初に見たいのは、どの工程に時間がかかっているかです。形状データの準備か、メッシュ作成か、計算そのものか、結果の評価かで打ち手が変わります。ある重機メーカーは、メッシュ作成が最大の負荷でした。メッシュレスの手法に切り替え、10倍の高速化に至っています。
準備工程を計測しておく意味は大きいでしょう。公開されている削減率の多くは、この前処理の短縮によるものです。計算時間だけを短くしても、全体の期間は縮まりません。
モデル規模と計算時間の実績値を確認する
次に確認したいのは、扱うモデルの規模です。要素数と節点数、自由度がどの程度になるかで必要な計算環境が変わります。ある自動車エンジン開発会社は、1.01M要素の解析に290時間を要したと公表していました。
この数値は見積もりの根拠として使えます。自社のモデルが近い規模なら、同程度の時間を見込む必要があります。解析の回数も掛け合わせて、開発日程に収まるかを確かめてください。
解析を担う体制を決める
3つ目に決めたいのは、誰が解析を行うかです。専任者に任せるのか、設計者自身が回すのかで求める操作性が変わります。ある造船会社は、設計と解析の両方が分かる人材の育成そのものを課題に挙げていました。
属人化への対策も併せて考えておく必要があります。ある重工メーカーは、パラメータの選定に経験と直感が必要だと述べています。そのプロセスは個人の専門知識に依存していたそうです。同社は開発元の有償サービスを活用して導入の障壁を下げました。
事例からわかる成功事例の共通点
効果を数値で公表している事例には、共通した進め方がみられます。特徴が出ているのは製品の選定より、解析を回す仕組みの作り方です。次の3点が共通項として挙げられます。
- 実測との突合を工程に組み込んでいた
- 計算量そのものを減らす工夫をしていた
- 設計者が自分で解析できる体制にしていた
実測との突合を工程に組み込んでいた
効果を出している事例は、解析結果を実機で確かめています。ある二輪メーカーは樹脂カバーの座屈部位が試験結果と合うことを確認しました。その確認を経てから、複数の設計案を画面上で比較する段階に進んでいます。
照合の精度を仕組みで担保する例もあります。ある自転車メーカーは荷重履歴が実測のひずみと2%以内で一致する仕組みを採用しました。ある鉄道車両メーカーは140か所を超える位置で計測を行っています。
計算量そのものを減らす工夫をしていた
大きなモデルを速く解くのではなく、解く対象を軽くする発想が共通しています。ある建機メーカーは次数低減モデルを導入し、フルスケールの解析を避けました。ある重機メーカーはメッシュ作成の工程そのものをなくしています。
この工夫が、公表されている倍率の源になっています。計算機の性能を上げるだけでは到達しにくい水準です。製品を比べる際は、こうした軽量化の手段を備えているかを見てください。
設計者が自分で解析できる体制にしていた
解析を専任者に閉じない事例が目立ちます。ある自動車部品メーカーは、設計者がシミュレーションを自動実行できるテンプレートを整備しました。ある造船会社では、図面と解析の両方を理解する設計者が増えたと公表されています。
操作性が導入の条件になった例もあります。ある大学では、機械工学の知識がない学生でも応力とひずみを調べられる点が評価されました。講義期間が限られ、受講生が120人を超えていたという事情がありました。
事例から学ぶつまずきやすいポイント
公式の事例には、導入時に苦労した点も書かれています。難所は計算能力ではなく、モデル化の判断と担い手の側に集まっていました。次の4点が繰り返し登場します。
- メッシュ作成に時間を取られる
- 簡略化の見極めが経験に依存する
- 解析結果と実測が合わない
- 解析を担える人材が育たない
メッシュ作成に時間を取られる
最も多く登場するのが、メッシュ作成の負荷です。ある重機メーカーは、これを時間とリソースのボトルネックだと明記していました。ある大学の研究者は、自作のコードではメッシュ準備とプログラム作成に数週間かかっていたと述べています。
周波数帯ごとにモデルを作り直していた例もあります。ある自動車関連会社は、従来は解析の条件に応じて手作業でモデルを作り直していました。1つのメッシュで済む技術に切り替えたことで、計算時間が大きく縮まりました。
簡略化の見極めが経験に依存する
モデルをどこまで簡略化するかの判断は、蓄積がないと難しくなります。ある自動車メーカーは、解析に必要な要素と省ける要素の見極めができるようになったと述べています。その前提には、これまで蓄積してきたメカニズムの解明があったそうです。
簡略化を強いられる場面もあります。あるスタートアップは、膨大な計算量が制約になると指摘しています。調査を特定の運転ポイントに限定したり、メッシュを単純化したりする必要が生じるためです。
解析結果と実測が合わない
解析結果が実測と合わないのは、よくある事態です。ある大学の研究では、初期のモデルで関節を過剰に硬く設定していたことが後から見直されました。非線形の超弾性物性を導入して精度を改善しています。
原因を突き止めて補正した例も公開されています。ある照明メーカーは、温度の解析結果が実測より高くなる問題に直面しました。固体部品間の熱抵抗の違いが原因だと特定し、較正を行っています。解析の導入計画には、照合と補正の工程を入れておいてください。
解析を担える人材が育たない
人材の問題は、課題としても効果としても登場します。ある造船会社は、設計と解析の両方が分かる人材の育成を課題そのものに挙げていました。効果の側でも、新入社員の設計勘が養われた点が公表されています。
体制の分断も課題として挙がっています。ある重工メーカーでは、設計プロセスと開発環境が部門ごとに異なっていました。部門別に自動化を進めた後、データの受け渡しとプロセス統合が必要になったそうです。人材と体制の問題は、製品の機能比較とは別に検討してください。
まとめ
構造解析ソフトの効果は、5倍から10倍の高速化や80%から93%の短縮という形で公表されています。短縮されているのは計算ではなく、メッシュ作成などの準備工程でした。自社のボトルネックがこの前処理にあるかどうかで、同じ数値が再現するかが変わります。
導入の難所はモデル化の判断と担い手の側にありました。簡略化の見極めは経験に依存し、設計と解析の両方が分かる人材は容易には育ちません。検討を始める際は、扱うモデルの規模と解析の種類、そして誰が回すのかを整理してみてください。製品ごとの違いは構造解析ソフトの比較記事で解説しています。費用の考え方は構造解析ソフトの費用記事をご覧ください。
構造解析ソフトのおすすめ製品
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MIDAS NFX
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ADVENTURECluster
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Ansys Mechanical
Ansys, Inc.(Synopsys傘下)
Workbenchで多物理連成まで広げる汎用構造ソルバー
ADINA
ADINA R&D(Bentley Systems)
非線形・連成解析に強い構造CAE
MSC Nastran
Cadence Design Systems(日本: エムエスシーソフトウェア株式会社/株式会社ソフトウェアクレイドル)
大規模線形・固有値の業界リファレンス
構造解析ソフト比較表
| ロゴ | 製品名 | ベンダー | 価格モデル | 特徴 | |
|---|---|---|---|---|---|
| Femtet | ムラタソフトウェア株式会社 | サブスクリプション | 8物理現象を年額制で扱える設計者CAE | 詳細を見る | |
| MIDAS NFX | MIDAS Information Technology | 要見積もり | 設計者向けに構造・熱・流体・最適化を統合 | 詳細を見る | |
| ADVENTURECluster | 株式会社アライドエンジニアリング | 要見積もり | CGCG法で一億自由度超を解く国産の大規模構造解析ソフト | 詳細を見る | |
| Ansys Mechanical | Ansys, Inc.(Synopsys傘下) | 要見積もり | Workbenchで多物理連成まで広げる汎用構造ソルバー | 詳細を見る | |
| ADINA | ADINA R&D(Bentley Systems) | 要見積もり | 非線形・連成解析に強い構造CAE | 詳細を見る | |
| MSC Nastran | Cadence Design Systems(日本: エムエスシーソフトウェア株式会社/株式会社ソフトウェアクレイドル) | 要見積もり | 大規模線形・固有値の業界リファレンス | 詳細を見る | |
| Abaqus(SIMULIA) | ダッソー・システムズ(Dassault Systèmes) | 要見積もり | 非線形・接触・大変形の精度に強い汎用FEM | 詳細を見る | |
| Simcenter 3D | シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェア | 要見積もり | CAD-CAE統合の次世代マルチフィジクスプラットフォーム | 詳細を見る |
よくある質問
Q構造解析ソフトの導入でどれくらいの効果が出ていますか?
時間短縮の形で公表されています。デンソーはCADと解析を統合したプロセスにより、コンポーネントのシミュレーション時間を80%短縮し、5日からわずか1日にしました。タダノはメッシュレスの解析手法でシミュレーションのプロセスを10倍高速にしています。コマツは従来のCAE手法よりも5倍高速に熱機械疲労を評価でき、設計寿命を1分以内で評価できるようになりました。Sujan ContiTechは複雑な高圧ダイキャスト部品のリードタイムを約40%短縮し、設計サイクルも約20%短くしています。
Qなぜ準備工程の短縮が効果の中心になるのですか?
構造解析では、形状データの整理とメッシュ作成、モデルの簡略化に多くの時間がかかります。タダノはこれを時間とリソースのボトルネックだと明記しており、メッシュ作成の工程そのものをなくしたことで10倍の高速化に至りました。ある大学の研究者は、自作のコードではメッシュ準備とプログラム作成に数週間を要していたと述べています。計算そのものを速くしても、この前処理が残れば全体の期間は縮まりません。製品を比べる際は、計算速度より前処理の機能を見てください。
Q大規模なモデルではどれくらい時間がかかりますか?
MAHLE Powertrainが実績値を公表しています。シリンダーヘッドとブロックのアセンブリ解析は1.01M要素、1.72M節点、8.8M自由度に達し、実行時間は12日以上の290時間でした。クランクシャフトの解析は24時間です。Stadler Railの鉄道車両モデルは300万要素を超え、自由度は1,200万に達しています。静解析では45種類の荷重ケースを検討しました。自社のモデルが近い規模なら、同程度の時間と解析回数を開発日程に織り込む必要があります。
Q解析結果と実測が合わない場合はどうすればよいですか?
原因を特定して補正する工程を計画に入れてください。ある大学の研究では、初期のモデルで関節を過剰に硬く設定していた点が後から見直され、非線形の超弾性物性を導入して精度が改善されました。ある照明メーカーは温度の解析結果が実測より高くなる問題に直面し、固体部品間の熱抵抗の違いが原因だと特定して較正を行っています。Trek Bicyclesは算出した荷重履歴が実測のひずみと2%以内で一致する仕組みを採用し、Stadler Railは140か所を超える位置でひずみを計測していました。
Q導入でつまずきやすいのはどこですか?
4つあります。1つ目はメッシュ作成の負荷で、最も多く報告されています。2つ目はモデルの簡略化の見極めです。トヨタ自動車は解析に必要な要素と省ける要素の見極めができるようになったと述べており、その前提には蓄積してきたメカニズムの解明がありました。3つ目は解析結果と実測の乖離です。4つ目は人材で、住友重機械マリンエンジニアリングは設計と解析の両方が分かる人材の育成を課題そのものに挙げていました。いずれもソフトの性能ではなく、モデル化の判断と体制の問題です。
