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選び方・ノウハウ#プロセスシミュレーション#プロセスシミュレーター#Aspen Plus

プロセス解析ソフト比較|主要4製品の選び方と判断軸

プロセス解析ソフトの主要4製品(Aspen Plus/Aspen HYSYS/CHEMCAD/AVEVA PRO/II Simulation)を、用途・物性データ・計算方式・動的対応・価格レンジ・国内サポートの6軸で比較。化学合成、石油精製、LNG、特殊化学などの業種別に第一候補・第二候補を絞り込めるよう、判断軸とPoCのチェック観点を中立視点で整理しました。

製造業のシステム選定担当者ITトレンド編集部
プロセス解析ソフト比較|主要4製品の選び方と判断軸

プロセス解析ソフトの比較で迷う場合、まず押さえたいのは「用途・物性データ・計算方式・動的対応・価格レンジ・国内サポート」の6つの判断軸です。Aspen Plus、Aspen HYSYS、CHEMCAD、AVEVA PRO/II Simulation の主要4製品は、化学合成・石油精製・LNG・特殊化学・電池材料などの異なる現場で使われ、得意領域もライセンス体系も大きく異なります。

本記事では、4製品を並列に整理し、用途別・規模別の絞り込み例と、導入前に確認したい注意点までを中立視点でまとめます。読み終えたあとに第一候補・第二候補を絞り込んでベンダー個別評価へ進めることを目的にしています。


この記事でわかること

01

プロセス解析ソフト比較で押さえる前提と6つの判断軸

プロセス解析ソフトとは、化学プラントや石油精製プラントの物質収支・熱収支・反応・分離・気液平衡などを計算で再現するシミュレーターを指します。エンジニアリング業界では「プロセスシミュレーター」「プロセスシミュレーションソフト」とほぼ同義で使われ、定常状態を解く定常シミュレーターと、時間変化を解く動的シミュレーターに大別されます。

検索キーワード「プロセス解析ソフト」には2系統の意図が混在しています。1つは化学プラント設計用のシミュレーター、もう1つは分析計やプロセス計装データを統計処理する産業機械系の解析ツールです。本記事は前者、すなわち化学工学領域のシミュレーターを対象とします。

主要4製品を見比べるときには、業界で使われる比較軸がほぼ定型化されています。まず得意領域、つまり化学合成・石油精製・ガス・特殊化学のどこを主戦場にしているかです。同じ「プロセスシミュレーター」と呼ばれても、ターゲット用途で内部の物性パッケージや反応器モデルの作り込みが異なります。

次が物性データベースの厚みです。たとえば AspenTech は Aspen Plus の物性基盤として37,000化合物、127物性パッケージ、500万件以上のデータポイントと相互作用パラメータを公表しており、純物質物性に加えて電解質・固体・原油アセイ・蒸留カットを業界の標準量で押さえています。製品ごとに搭載数や得意な物性系が異なるため、自社の取り扱い物質をどこまで素直に扱えるかが選定の分かれ目になります。

3つ目は計算方式で、シーケンシャル・モジュラー法(各機器を順に解く方式)と Equation Oriented 法(全式を同時に解く方式)、HYSYS が採用する Active mode(ソルバーを Active と Holding に切り替えてフローシートに条件を伝播させる方式)の違いが操作感と収束性に影響します。

4つ目は動的シミュレーションとバッチ対応の有無です。蒸留塔のスタートアップ、リアクタの暴走解析、安全弁のサイジングなどでは動的計算が必須になります。5つ目が価格レンジで、4製品とも公式に料金を公開しておらず、機能セットと同時利用数で金額が大きく動くのが共通点です。

6つ目は国内サポートと連携性です。日本語マニュアル、国内代理店、教育プログラム、Python・MATLAB・実プラント運転データへの連成のしやすさが、運用フェーズで効いてきます。化学品メーカー、石油元売、ファインケミカル、電池材料メーカーなど業種ごとに優先順位は変わるため、6軸のうち何を最重視するかを最初に決めると比較が進めやすくなります。

6軸を眺める順番にも実務的なコツがあります。まず用途で2〜3製品まで絞り、次に物性データと動的対応で機能要件を満たすかを確認し、最後に価格と国内サポートで運用面の現実性を確かめる流れが、最短で第一候補にたどり着きやすい進め方です。


02

主要4製品(Aspen Plus / HYSYS / CHEMCAD / PRO/II)の特徴を並列で見る

4製品はいずれも化学工学領域の定番シミュレーターですが、出自と主戦場が異なります。製品単独で判断せず、開発元・統合プラットフォーム・国内代理店までを含めて並列で見ることが、絞り込みの近道になります。

Aspen Plus(AspenTech)

Aspen Plus は AspenTech(Aspen Technology)が提供する定常プロセスシミュレーターで、化学合成・電解質・固体ハンドリング・反応器設計に強いことで知られます。バルクケミカル、スペシャリティケミカル、医薬向けに最適化された定常シミュレーション基盤として公式に位置づけられ、バッチ・連続・混合運転までを同一環境で扱えます。ベースはシーケンシャル・モジュラー法ですが、Equation Oriented モードを併用でき、再循環の多い大規模フローシートでも収束計算を組みやすい点が評価されています。

用途としては、ファインケミカル、医薬中間体、樹脂・ポリマー、無機化学、電池材料の電解液系など、純成分が多く反応や固液同伴を扱う領域で採用例が目立ちます。動的計算は Aspen Plus Dynamics として別ラインの製品で提供されており、定常モデルをベースに動的モデルへ展開する構成が公式ドキュメントで前提となっています。

Aspen HYSYS(AspenTech)

Aspen HYSYS は同じく AspenTech の製品で、石油精製・天然ガス・LNG・石油化学を主戦場とします。ソルバーを Active と Holding に切り替えて使う方式(Active mode)が特徴で、Active にすると入力した条件がフローシートに即時に反映され、操作感が対話的になります。原油アセイの管理機能や蒸留カットの扱いに強みがあり、石油元売やエンジニアリング会社で標準的に使われてきました。

動的計算は HYSYS Dynamics で同一環境内に組み込まれ、定常から動的へモデルをそのまま展開できるのが運用上の利点です。AspenTech は近年 industrialAI を掲げ、機械学習やデジタルツイン文脈の機能拡張を続けており、HYSYS もその系列に位置付けられています。

CHEMCAD(Chemstations / Datacor)

CHEMCAD は Chemstations が開発した汎用プロセスシミュレーターで、2021年8月に Chemstations が Datacor の傘下に入り、現在は Datacor グループの製品として提供されています。モジュール選択制のライセンスが特徴で、フローシート(CC-STEADY STATE)に加えて動的(CC-DYNAMICS)、バッチ(CC-BATCH)、熱交換器詳細(CC-THERM)、安全弁(CC-SAFETY NET)などを必要なものだけ追加できます。

中堅メーカー、特殊化学、エンジニアリング会社の小規模設計部門で採用されることが多く、Aspen 系と比べて柔軟なライセンス構成と相対的に手の届きやすい価格帯が選ばれる理由として挙がります。世界では16の国際代理店ネットワークを通じて72か国でサポート提供されており、日本国内でも代理店経由でのトレーニングや日本語サポートを受けられます。

AVEVA PRO/II Simulation(AVEVA)

AVEVA PRO/II Simulation は、1966年に SimSci の前身が販売した蒸留計算プログラム SP3 にルーツを持つ老舗の定常シミュレーターです。Invensys を経て、2014年に Schneider Electric が Invensys を買収、2018年の Schneider Electric と AVEVA のリバースマージにより SimSci ブランドの製品群が AVEVA に統合され、現在は AVEVA が開発・販売しています。2023年には AVEVA 自体が Schneider Electric により完全子会社化されました。

石油精製・石油化学・ガス処理の領域で長く使われ、SimSci 物性パッケージの蓄積と熱力学計算の堅牢さが評価されてきました。AVEVA はプラントエンジニアリングと運用データの統合プラットフォームを志向しており、動的シミュレーター DYNSIM、運用最適化 ROMeo、配管系の PIPEPHASE、次世代の SimCentral などと組み合わせて使う構成が前提になっています。OSIsoft の PI System を傘下に持ち、運転データ連携・デジタルツイン文脈で並べて検討されることが多い製品です。

実際の製品を一覧で確認したい場合は、ITトレンドのプロセスシミュレーションカテゴリで、想定業種・予算規模などの条件を絞り込んで比較できます。


03

判断軸ごとの比較ポイント(得意領域・物性DB・計算方式・動的対応・価格・国内サポート)

4製品の特徴を並べたうえで、6つの判断軸に沿って差分を整理します。比較表は記事末尾に自動表示されるため、ここでは違いの背景まで踏み込んだ解説に絞ります。

得意領域:化学合成・石油精製・ガス・特殊化学の棲み分け

大まかには、化学合成と固体・電解質を含む系は Aspen Plus、石油精製・天然ガス・LNG は Aspen HYSYS と AVEVA PRO/II、中堅プラントや特殊化学は CHEMCAD という棲み分けが業界で定着しています。1つの製品が全領域を等しく得意とするわけではなく、原油アセイ・電解質モデル・固液同伴・バッチ重合など、自社の代表的なプロセスとの相性で第一候補が変わります。

同じ石油精製でも、原油評価と精製装置全体の物質収支は HYSYS / PRO/II が、芳香族の反応や接触改質の詳細は Aspen Plus が選ばれるなど、社内で工程ごとに併用するケースも珍しくありません。複数製品の併用前提でモデル管理のルールを決めている大手企業もあります。

物性データベース:純成分・電解質・固体・原油アセイの厚み

物性データベースの違いは、導入後の使いやすさに直結します。Aspen Plus は AspenTech が公表する基盤として37,000化合物・127物性パッケージ・500万件以上のデータポイントを擁し、電解質モデル(Electrolyte NRTL など)や固体ハンドリングを標準で扱える点が特長です。HYSYS は石油精製向けに最適化された原油アセイ管理が強く、PRO/II は SimSci 物性パッケージの長年の蓄積を活用できます。

CHEMCAD は CHEMCAD 独自の物性DBに加えて、CAPE-OPEN 経由で外部の物性パッケージを取り込める設計になっており、サードパーティの CAPE-OPEN 互換物性パッケージへ数クリックでアクセスできます。物性回帰や独自モデルの取り込みを行う場面で、自社の取り扱い物質に「公的DBにない化合物」や「実測物性データで補正したい系」が多い場合、CAPE-OPEN 対応と回帰機能の使い勝手が選定の決め手になります。

計算方式:シーケンシャル・モジュラー法と Active mode の違い

計算方式は操作感と収束性に影響します。Aspen Plus、CHEMCAD、AVEVA PRO/II は基本的にシーケンシャル・モジュラー法(フローシートを上流から順に解き、再循環は反復で収束させる方式)を採用しています。Aspen Plus は加えて Equation Oriented モード(全式を同時に解く方式)を選択でき、大規模再循環や同時最適化を行う場面で有効です。

HYSYS の Active mode は、ソルバーが Active のあいだ入力変更がフローシート全体に伝播する仕組みで、設計条件から逆算的にフローシートを組む使い方に向いています。一方で、複雑な再循環系や反応詳細を組み込む場合は、Holding に切り替えてから入力をまとめて Active に戻すなど、内部の解法設定を理解しないと収束に時間がかかることもあり、運用ノウハウの蓄積が必要になります。

動的シミュレーション・バッチ対応

動的シミュレーションは、安全弁のサイジング、緊急停止時の挙動、スタートアップ・シャットダウン、運転員訓練用シミュレーターの構築などで使われます。Aspen Plus Dynamics、Aspen HYSYS Dynamics、CHEMCAD の CC-DYNAMICS、AVEVA DYNSIM がそれぞれ対応していますが、いずれもベースのシミュレーターとは別ラインの製品・モジュールとして用意されています。

バッチ重合や晶析などのバッチプロセスでは、CHEMCAD の CC-BATCH や Aspen Batch Process Developer などの専用ツールが用意されています。連続プロセスの定常解析だけで足りるのか、動的・バッチまで踏み込むのかで必要ライセンス数が変わり、結果として年間コストも変わる点に注意が必要です。

価格レンジ:年間ライセンス・同時利用・モジュール構成

4製品はいずれも公式に価格を公開していません。一般的に語られる桁感としては、Aspen Plus / HYSYS は年額数百万円から数千万円規模、AVEVA PRO/II は同等の規模、CHEMCAD は構成によりこれより手の届きやすい範囲、というレンジが目安として挙がります。ただし、機能セット・同時利用ライセンス数・期間契約・教育機関ライセンス・海外拠点利用の有無で実勢価格は大きく動くため、稟議目的の比較では必ず複数ベンダーから条件付き見積もりを取り、見積条件まで揃えて比べる必要があります。

「自社で1ライセンスあれば十分」と思っていたが、実際には複数拠点・複数チームから同時利用したくなって追加が必要になる、というのが典型的な落とし穴です。同時利用の上限・トークン制(フローティング)・指名ユーザー制のどの方式かを契約段階で確認しておくと、後から追加投資が膨らみにくくなります。

国内サポート・教育プログラム・Python 連成

国内サポートでは、日本語マニュアル、国内拠点のサポート窓口、トレーニングプログラム、ユーザー会の有無を確認します。AspenTech と AVEVA は日本拠点を持って国内サポートを展開し、CHEMCAD は国際代理店ネットワーク経由でのサポートが基本構造です。大学・高専・研究機関向けには別体系の教育機関ライセンスが用意されており、学生時代に触れた経験者が社内に増えていることも実務上の運用に影響します。

DX・デジタルツイン文脈では、Python や MATLAB との連成、CAPE-OPEN 対応、実プラント運転データ(PI System など)との接続のしやすさが論点になります。AVEVA は PI 連携を強みに前面に出しており、AspenTech も自動化API・最適化エンジンとの組み合わせで運用最適化を訴求しています。CHEMCAD は CAPE-OPEN ホストとして物性パッケージ・ユニットオペレーションの両方に対応しており、外部ツールと組み合わせやすい構成です。


04

用途別・規模別に見る選び方の例

判断軸を並べたうえで、用途と規模の組み合わせで第一候補が見えてきます。以下は典型例で、最終判断は自社モデルでの PoC を経たうえで行うのが前提です。

石油精製・LNG・天然ガス処理が中心の場合

石油精製・LNG・天然ガスのプロセスを主戦場とする企業では、Aspen HYSYS と AVEVA PRO/II Simulation が第一候補として並びます。原油アセイ管理、極低温熱交換ネットワーク、ガス処理ユニットなど、業界で標準的に検証されてきたモデルが多く、ベンダーのリファレンスも豊富です。

既に運転データ基盤として PI System を導入している場合は AVEVA、industrialAI 系の機能や HYSYS Dynamics と組み合わせた運転員訓練を視野に入れるなら AspenTech、という選択の整理になります。両社ともプラント設計と運用最適化を統合する戦略を取っているため、シミュレーター単体ではなく周辺製品まで含めて評価軸を作ると判断しやすくなります。

化学合成・反応・固体・電解質を扱う場合

ファインケミカル、医薬中間体、無機化学、電池材料、ポリマーなど、純成分が多く反応や固液同伴を扱う領域では、Aspen Plus が第一候補になりやすい構成です。電解質モデル、固体ハンドリング、反応速度モデル、ポリマーモジュールなど、化学領域に特化した拡張モジュールが豊富で、社内に化学工学のモデリング知見を蓄積してきた企業ほど親和性が高くなります。

同じ化学領域でも、フローシート規模が小〜中規模で、必要モジュールが明確な場合は CHEMCAD が現実的な第二候補になります。CAPE-OPEN 経由での外部物性パッケージ取り込みとライセンス構成の柔軟さが理由で、研究開発のスクリーニングや中堅メーカーの基本設計で採用されるケースが見られます。

中堅プラント・特殊化学・コスト重視の場合

売上数百億円規模の中堅メーカーや、エンジニアリング会社のうち比較的小規模な設計部門では、CHEMCAD を中心に置く構成が選択肢に上がります。必要モジュールだけを選んでライセンスを組めるため、初期投資を抑えつつ、用途が広がったら段階的に拡張する運用が取りやすい点が背景にあります。

ただし、大規模再循環や高度な動的シミュレーションを長期的に運用する場合、上位2社のほうがリファレンスや実務情報の蓄積で有利になることもあります。今後数年のロードマップを描いてから、どの製品をどこまで使うかを決めると、途中で乗り換えを余儀なくされるリスクを下げられます。

研究開発スクリーニング・教育用途の場合

研究開発フェーズでアイデアの当たりをつけたい、あるいは大学・高専での教育に使いたい場合は、教育機関ライセンスや限定機能のスタートアップ向け契約が選択肢になります。各ベンダーとも研究機関向けに別体系の料金が設定されており、商用利用とは条件が異なります。

CAPE-OPEN 対応のオープン系シミュレーター(COCO/ChemSep、DWSIM など)は無料で利用できます。DWSIM は GNU GPL v3 のもとで配布されており、COCO は CAPE-OPEN に準拠した定常シミュレーターとして ChemSep を蒸留塔ユニットとして組み込んで使う構成が一般的です。商用のプロセス解析ソフトと比べると物性DBの厚みやサポートに差があり、初期検討フェーズの補助やトレーニング用途として割り切るのが現実的です。

既存ユーザーが乗り換えを検討する場合

既存ユーザーが別製品への乗り換えを検討する場合、最も大きな論点はモデル資産の移植コストです。フローシート、物性パッケージ、ユーザー定義反応器、Excel との外部リンク、社内マクロ・スクリプトの再構築が発生します。CAPE-OPEN を介して一部のユニットモデルや物性パッケージを共有できる場合もありますが、内部設定や反応器のチューニング値までは引き継げないことが一般的です。

そのため、乗り換え検討では「全面置き換え」ではなく、「新規プロジェクトから新製品を併用し、既存モデルは現行製品で維持する」というハイブリッド運用から入る企業が多く見られます。同じ自社代表モデルを両製品で再構築してみて、収束性・物性表現・運用負荷を比較するのが現実的な進め方です。


05

導入前に確認すべき注意点と失敗しやすいポイント

4製品いずれを選ぶ場合でも、導入計画の段階で見落とすと後から効いてくる論点があります。稟議資料と PoC のチェックリストを兼ねて、以下の観点を押さえておくと、運用開始後の手戻りが減ります。

物性データ整備の負荷を見積もる

導入初期で最も負荷がかかるのは、ソフトウェア自体の習得ではなく、自社の取り扱い物質に対する物性データ整備です。蒸気圧、活量係数、密度、粘度、熱物性、相互作用パラメータなど、公的DBや製品標準DBに収載されていない化合物・系では、実測物性データの回帰や文献調査が必要になります。

製品ごとに物性回帰機能の使い勝手が異なるため、稟議の前段で「整備が必要な化合物リスト」と「回帰に必要な実測データの有無」を棚卸ししておくと、見積もりに必要な工数と人員配置が見えてきます。物性整備を外注する場合の費用感も、ライセンス費用と並べて比較対象に含める必要があります。

ライセンスの落とし穴を確認する

ライセンス契約は年額更新が一般的で、機能セットの組み合わせ、同時利用数、海外拠点利用、教育機関利用などで条件が大きく変わります。とくに次の3点は事前確認の優先度が高い項目です。1つは同時利用数の上限と、上限超過時の挙動。2つ目は海外拠点で同じライセンスを使えるかどうか。3つ目は年次更新で値上げ条項があるかと、長期契約による割引の有無です。

多くの企業では、PoCの段階では1ライセンスで足りたが、本格導入後に拠点・チームの利用が増えて追加ライセンスが必要になる、というパターンが頻繁に起こります。3年・5年単位の運用人数を見積もったうえで契約形態を選ぶと、後から追加投資が膨らみにくくなります。

計算収束の安定性を自社モデルで確認する

カタログスペックや海外事例だけで判断すると、いざ自社モデルで動かしたときに収束しない、収束しても妥当性が確認できない、というケースが起こります。とくに複雑な反応系、電解質、固液同伴系、高真空蒸留、原油の重質留分などは製品ごとに挙動が異なります。

PoC では自社代表モデルを1〜2件選び、同じ入力条件・同じ物性パッケージ(できる限り近い設定)で各製品を動かし、収束性・収束時間・結果の妥当性を並べて比較するのが定石です。ベンダーが用意したサンプルモデルだけでは、自社固有の収束性課題は見えてきません。

学習コストと社内教育を計画する

シミュレーターは導入して終わりではなく、社内で安定的に運用できる体制まで作って初めて投資効果が出ます。トレーニングプログラム、社内ユーザー会、過去モデルのドキュメント化、後任への引き継ぎ手順など、運用面の設計をライセンス契約と同時に進めるのが望ましい流れです。

新卒・中途で入社するエンジニアの「シミュレーター経験」も判断材料になります。大学での使用経験が多い製品は、入社後の立ち上がりが早く、社内教育コストを抑えられる傾向があります。AspenTech 系の製品は大学のカリキュラムでの採用例が比較的多く、CHEMCAD は中堅プラントの実務トレーニングで使われるなど、層によって馴染みのある製品が分かれています。

運転データ連携・Python 連成・DX への将来拡張

シミュレーターを設計フェーズだけで使うのか、運転データと連携してデジタルツインや運用最適化まで広げるのかで、選定の重みが変わります。PI System などの実プラント運転データとの接続、Python や MATLAB との連成、機械学習ライブラリとの組み合わせなど、将来拡張の方向性を 3〜5年スパンで描いておくと、シミュレーター単体ではなくプラットフォームとして評価できます。

逆に「当面は設計フェーズに限定して使い、運用最適化はやらない」と決めるなら、単体のシミュレーション機能と国内サポートを重視する選定で十分です。今のニーズと将来のニーズを分けて整理することで、不要なモジュールを抱え込まずに済みます。


06

まとめ|プロセス解析ソフト比較の判断軸と次のアクション

プロセス解析ソフトの比較では、用途(化学合成・石油精製・ガス・特殊化学)、物性データベース、計算方式、動的・バッチ対応、価格レンジ、国内サポート・連携性の6軸で4製品を見比べるのが基本線です。Aspen Plus は化学・反応・固体・電解質、Aspen HYSYS は石油精製・ガス・LNG、CHEMCAD は中堅プラント・特殊化学・モジュール選択制、AVEVA PRO/II Simulation は石油精製・石油化学と AVEVA 統合プラットフォーム、という棲み分けが大枠の理解になります。

稟議や PoC に進む前に、自社代表モデルを1〜2件選び、6軸のうち何を最重視するかを社内で合意することが、絞り込みの近道です。第一候補・第二候補まで絞り込んだうえで、各ベンダーに同じ条件で見積もりと PoC を依頼すると、価格と性能の両面で比較が可能になります。

4製品以外を含めて条件で絞り込みたい場合は、ITトレンドのプロセスシミュレーションカテゴリで、想定業種・運用規模などの条件を絞り込み、複数製品を並べて比較できます。製品単体ではなく、社内体制と将来のDX計画まで含めた選定軸で進めることが、長期的な投資効果につながります。

プロセス解析ソフト(プロセスシミュレーター)比較表

製品名ベンダー価格モデル特徴
CHEMCADChemstations(Datacor)要見積もり中堅プラント・受託エンジに向くモジュラー構成詳細を見る
Aspen HYSYSAspenTech要見積もり油ガス・石油精製・天然ガス処理に最適化詳細を見る
AVEVA PRO/II SimulationAVEVA Group要見積もり設計〜運転デジタルツインを志向するプロセスシミュレーター詳細を見る
Aspen PlusAspenTech要見積もり精密化学・ポリマー・電解質に強い定常プロセスシミュレーター詳細を見る