予知保全の導入事例|導入前の課題や導入後の効果を解説!
予知保全の導入事例を化学プラント・製鉄・食品・製薬・自動車部品などの業種別に紹介します。導入前の課題と導入後の効果を事例ごとに整理し、成果が出た現場の共通点や、導入でつまずきやすいポイントと回避策も解説します。

予知保全の導入事例を業種別に探している方に向けて、公開情報で確認できる取り組みを整理しました。対象は化学プラント・製鉄・食品工場・製薬・自動車部品・生産現場全般です。各事例は「導入前の課題」「採用した手法」「導入後の効果」の順にまとめています。後半では、成果が出た現場の共通点と、導入でつまずきやすい点も取り上げます。自社の設備に置き換えながら読み進めてください。
- 成果が出ているのは、止まると損失が大きい回転機や連続運転設備を持つ現場です
- 振動・温度・電流に予兆が現れやすい設備ほど、効果を確認しやすくなります
- 報告されている効果は、突発停止の削減、過剰な点検・部品交換の抑制、熟練者の判断の標準化です
- 効果は対象設備の選び方とデータの質に左右されます
予知保全は、すべての故障を防ぐ仕組みではありません。重要設備に絞った小さな検証から始め、精度と運用の両面を確かめる進め方が現実的です。
この記事でわかること
予知保全の基礎知識
事例を読む前に、予知保全の位置づけと代表的な手法を確認します。事例ごとに採用された手法が異なるため、違いを押さえておくと比較しやすくなります。ここでは3つの観点に絞って整理しました。
予知保全の位置づけ
予知保全は、設備の状態データから故障の予兆を捉え、壊れる前に計画的な整備へつなげる保全の方式です。故障してから直す事後保全や、一定期間ごとに部品を替える予防保全とは考え方が異なります。
状態を見て保全の時期を判断するため、突発停止と過剰な部品交換を同時に抑えられます。一方で、予兆が信号に現れにくい突発破損は捉えきれません。従来の点検や予防保全を置き換えるのではなく、組み合わせて使う手法だと考えてよいでしょう。
予兆を捉える主な手法
事例で多く使われているのは、正常時のデータから「いつもの状態」を学習する方式です。そこからのずれを異常とみなすため、故障データを集めなくても始められます。
多数のセンサー値どうしの関係性の崩れを捉える方式もあります。NECのインバリアント分析は、この考え方にもとづく手法です。どちらの方式でも、正常データの質と量が精度を左右します。運転条件が変わると正常の範囲も変わるため、幅広い運転状態のデータが必要です。
エッジ処理とクラウド処理
データを分析する場所も、製品ごとに異なります。設備の近くで判定するエッジ処理は、制御周期と同期した高速な異常検知に向いています。PLC・センサー・AIを一体にした構成が、その一例です。
一方、工場全体のデータを集約して監視するプラットフォーム型は、設備台数の多い現場に向く構成です。既存PLCのデータを活用し、センサーを追加せずに始められる製品もあります。どこまでのリアルタイム性を求めるか、何台の設備を見るかによって、適した構成は変わってきます。
編集部メモ:予知保全の手法や用語の詳細は、予知保全の解説記事が参考になるでしょう。どの方式でどの設備を見ているかに注目すると、自社との違いを把握しやすいと考えています。
予知保全の事例を読むときのポイント
予知保全の事例は、業種や設備が違うと成果の出方も変わります。自社に置き換えて読むために、次の3点を確認しておくと比較しやすくなります。
- 対象設備と故障の種類
- 採用した検知手法と処理の場所
- 効果の示し方と前提条件
対象設備と故障の種類
まず確認したいのは、どの設備のどんな故障を対象にしているかです。熱交換器の閉塞、回転機のベアリング劣化など、事例ごとに捉えている異常は異なります。
閉塞や摩耗のように進行が緩やかなトラブルは、信号の変化として現れやすい傾向があります。反対に、予兆が出にくい突発破損を対象にした事例は多くありません。自社で困っている故障が、事例の対象と近い性質かを見比べてください。止まったときの損失の大きさも、あわせて確認しておきます。
採用した検知手法と処理の場所
次に、どの方式で予兆を検知しているかを確認します。正常データから学習する方式か、複数センサーの関係性を見る方式かで、必要なデータの種類が変わります。
あわせて、分析をエッジで行うのか、工場全体のデータを集約して行うのかも見ておきましょう。加工機のように瞬時の反応が要る設備と、設備台数の多い工場では、適した構成が異なるためです。自社の設備規模と照らし合わせると、参考にすべき事例を見極めやすくなります。
効果の示し方と前提条件
公開事例の効果は、数値で示されるものと、運用の変化として示されるものがあります。リードタイム削減率のような数値は、対象設備や条件が整った前提での実績です。
同じ製品を導入しても、どの現場でも同じ結果が出るとは限りません。検証段階の成果か、本番運用での成果かも確かめておきましょう。オフラインデータでの検証結果と、長期運用後の成果とでは、意味合いが異なります。数値だけでなく、導入前の状態と比べて何が変わったかに注目すると読み違いを防げます。
化学プラント・製鉄の予知保全事例
化学プラントや製鉄所は、連続運転で止まると損失が大きく、予知保全の費用対効果が出やすい業種です。多数の設備が連動し、一箇所のトラブルが工程全体の停止につながります。ここでは、公表されている2社の取り組みを紹介します。
JFEケミカル:Impulseによるリボイラーの閉塞予兆検知
- 業界:化学
- 企業規模:大企業
- 導入前後の変化:導入前は、リボイラーの閉塞に事後保全的な対応しか取れず、トラブル後に洗浄停止していた。導入後は、設備の洗浄・停止のタイミングを事前に明確化できるようになった
JFEケミカルは、蒸留塔の熱交換器(リボイラー)の閉塞予兆検知に取り組みました。採用したのは、ブレインズテクノロジーのAI異常検知ソリューション「Impulse」です。従来は、閉塞が起きてから洗浄停止するしかありませんでした。
施策として、運転データから「いつもの状態」を学習し、閉塞の予兆を捉えるモデルを構築しています。Impulseは、故障データがなくても正常データだけで異常を検知できます。振動・温度・電流に加え、画像や音声も扱えるマルチモーダル分析に対応する点も特徴です。
日本製鉄:インバリアント分析による設備状態監視
- 業界:鉄鋼
- 企業規模:大企業
- 導入前後の変化:導入前は、原因究明に10日間を要する解決の難しいトラブルが起きていた。導入後の検証では、オフラインデータを用いて同トラブルの予兆を事前に検知できることを確認した
日本製鉄は、製鉄所の設備状態監視基盤の構築に向けてNECの分析技術を採用しました。製品は「NEC Advanced Analytics - インバリアント分析」です。2021年には、東日本製鉄所君津地区で長期運用テストを開始しています。
インバリアント分析は、多数のセンサー値どうしの関係性の崩れを異常とみなす手法です。100msごとのリアルタイム計測データから、予兆を自動で検知できます。多数の機器が連動する大規模な設備群と相性のよいアプローチといえるでしょう。
編集部メモ:装置産業は多数の設備が連動し、単一指標の監視では予兆を見落としやすいと考えられます。両社とも、長時間のトラブルが起きた特定設備から検証を始めていました。この進め方が成果につながったと、編集部ではみています。
食品工場の予知保全事例
食品工場では、冷凍機やコンプレッサーなど回転機の停止が、製品ロスやチョコ停に直結します。温度管理が品質と安全に関わるため、設備の状態と環境データの両方を監視する取り組みが進んでいます。ここでは、富士電機などが公開している食品工場向けの活用例を取り上げました。
- 業界:食品
- 企業規模:特定企業の事例ではない(メーカーが公開している活用例)
- 導入前後の変化:導入前は、突発的な設備停止による製品ロスと、原因のわからないチョコ停、点検工数の多さが課題だった。導入後は、排気ファンやベアリングの故障予兆を早期に捉えて突発停止を回避し、点検工数を削減できたと報告されている
この活用例では、モーター・ポンプ・コンプレッサー・減速機に振動センサーを取り付けています。AIに正常稼働時のデータパターンを学習させ、そこから外れる動きを異常として検知する構成です。振動・温度などの状態量をIoTセンサーで常時集め、現場に近い場所で診断します。
食品工場では、HACCP対応のための環境監視を併用する例もあります。製造ラインや保管倉庫の温度・湿度を24時間監視し、基準値を超えたら管理者へ即座に通知する運用です。設備の予兆監視と同じデータ基盤で動くため、保全と品質管理を一体で進めやすくなります。冷凍機の不調は製品温度の逸脱につながるため、予兆を早く捉えることが廃棄ロスの抑制にも役立ちます。
一方、食品工場は洗浄や温度変化が多く、運転条件によって正常の範囲が変わりやすい環境です。季節やライン切り替えを含む幅広いデータを学習させないと、正常な変動を異常と誤検知しやすくなります。導入初期は、しきい値やモデルを運用しながら見直す体制を用意しておきましょう。
編集部メモ:食品工場は、製品ロスと品質リスクの両方を抱える現場だと考えられます。まずは、予兆が振動・温度に出やすい回転機から着手するとよいでしょう。誤報の調整工数を初期コストとして見込んでおくと、運用に乗せやすいと編集部ではみています。
製薬・医薬品工場の予知保全事例(想定事例)
製薬の製造では、設備の停止や状態のばらつきが、品質や規制適合(GMP)の問題に直結します。この章で扱うのは特定企業の事例ではありません。製薬分野で典型的な適用先と進め方を、1つのケースとして整理しました。
- 業界:製薬・医薬品
- 企業規模:特定企業の事例ではない
- 導入前後の変化:導入前は、逸脱を未然に防ぎたい一方で、設備トラブルの予兆を熟練者の経験に頼っていた。導入後は、環境逸脱や設備停止の予兆を事前に捉え、計画的な整備に切り替えることが期待される
代表的な適用先は、空調・温調・無菌環境を支えるユーティリティ設備です。冷凍機・空調機・ポンプ・コンプレッサーが止まると、製造そのものが止まります。環境逸脱による品質リスクが生じる点も見逃せません。施策は、回転機の振動・温度・電流を監視し、正常データから外れる動きを捉える方法が中心です。
汎用ツールの例として、ノーコードAI予測ツールの「Prediction One」があります。提供元はソニーネットワークコミュニケーションズです。予知保全専用ではないものの、設備データから故障の起きやすさを予測する用途で使われています。予兆を在庫・作業計画と結びつけたい場合は、EAM系の製品も選択肢に入るでしょう。例えば、IBMの「Maximo Application Suite」が該当します。watsonx搭載のAIで、予知保全と資産管理を統合できる製品です。
製薬の製造は、一度ラインを止めると再稼働や洗浄、バリデーションのやり直しに時間がかかります。そのため、突発停止を計画停止へ置き換える価値は、他業種より大きくなりがちです。
ただし、予知保全システム自体も、コンピュータ化システムバリデーション(CSV)の対象になりえます。その場合、検知ロジックや運用手順を文書化し、変更管理に乗せる手間が生じるでしょう。モデルを更新するたびに、妥当性の確認が要る場合もあります。規制対応に耐える運用まで含めて設計しておくと、後戻りを防ぎやすくなるでしょう。
編集部メモ:製薬では、検知後の運用と文書化の設計も導入の成果を左右すると考えられます。品質への影響が大きいユーティリティ設備から、小さく検証を始めるとよいでしょう。規制対応の運用に乗るかを確かめる進め方が向いていると、編集部ではみています。
自動車部品・加工現場の予知保全事例
自動車部品の加工現場では、加工機やベアリングを持つ設備の停止が、生産機会損失に直結します。1分の停止でも損失が大きいため、突発停止を防ぐ予知保全へのニーズが高い業種です。ここでは、エッジ型とプラットフォーム型の2つの取り組みを紹介します。
オムロン:i-BELTの設備の異常予兆監視サービス
- 業界:自動車部品・加工
- 企業規模:特定企業の事例ではない(メーカーが提供するサービス)
- 導入前後の変化:導入前は、加工機やベアリングの破損による突発的なライン停止が課題だった。導入後は、異常動作につながるデータを収集・分析し、予兆を早期に発見して突発停止を防ぐ
オムロンは、製造現場データ活用サービス「i-BELT」を展開しています。その第1弾が、設備の異常予兆監視サービスです。対象は、マシニングセンタなどの加工機や、破損の多いベアリングを持つ設備になります。
特徴は、AI搭載コントローラによるエッジでのリアルタイム異常検知です。PLC・センサー・AIが一体となり、制御周期と同期した高速処理で異常を捉えます。課題特定からAIモデルの運用までを支援するサービスとして提供されています。リードタイム短縮につなげた事例も公開済みです。
シーメンス:Senseye Predictive Maintenanceによる一括監視
- 業界:自動車製造など(設備群が大規模な現場)
- 企業規模:特定企業の事例ではない
- 導入前後の変化:導入前は、計画外ダウンタイムや保全コストが課題だった。導入後は、グローバルの各業種でそれらの削減が報告されている
「Senseye Predictive Maintenance」は、シーメンスの予知保全基盤です。工場全体の設備を一括で監視できます。MindSphere/Insights Hubとネイティブに統合されています。
既存PLCのデータを活用し、センサーを追加せずに予知保全を始められる設計が特徴です。ただし加工現場では、加工内容や工具・ワークの違いで正常の範囲が変わります。条件ごとにモデルを分ける工夫が要るため、代表的な加工条件から検証を始めると無理がありません。
編集部メモ:瞬時の異常反応が要る加工機には、エッジ型が向くと考えられます。設備台数の多い工場では、既存PLCデータを活かす一括監視型が候補になるでしょう。求めるリアルタイム性と設備の規模から、構成を選ぶとよいと編集部ではみています。
生産現場全般・設備保全の事例
特定の装置だけでなく、工場全体の生産性と保全を一体で底上げした事例もあります。日立製作所の大みか事業所は、多品種少量生産の現場で製造改革を進めました。2020年には、世界経済フォーラム(WEF)のライトハウス(先進工場)に選定されています。
- 業界:電機(多品種少量生産)
- 企業規模:大企業
- 導入前後の変化:導入前は、「人」と「もの」の動きが複雑で、現場全体の状態を把握しづらかった。導入後は、生産現場全体の動きをリアルタイムに可視化し、代表製品の生産リードタイムを50%削減した
大みか事業所では、約8万個のRFIDタグと約450台のRFIDリーダーを使っています。作業や物の流れを細かく収集し、既存の工程・生産管理システムのデータと組み合わせました。こうして、現場全体の動きをリアルタイムに可視化する仕組みを構築しています。
データ基盤は「Lumada Manufacturing Insights」として提供されています。設備の予知保全やOEE(設備総合効率)の可視化にも使える製品です。Lumadaは、異常の検知だけでなく対処策まで提示する処方的保全を掲げています。日立自身の製造拠点での実証ノウハウを反映している点も特徴といえるでしょう。
設備保全を起点に資産管理まで広げる場合は、EAM(資産管理)系の製品もあります。例として、IBMの「Maximo Application Suite」が挙げられます。SAPの「Intelligent Asset Management」も同じ系統の製品です。いずれも、資産・保全・在庫・作業計画を一元管理できる点が特徴です。大規模な設備群を持つ製造業やインフラで採用されています。製品の絞り込みには、予知保全・故障予測システムのカテゴリページが役立ちます。
編集部メモ:大みか事業所の事例は、予兆検知を現場全体の可視化の一部として進めた取り組みです。保全単体ではなく、OEEや工程改善まで含めて成果が出ていると考えられます。単体で導入するか、EAMや生産可視化と一体で進めるかは、課題の広さで判断するとよいでしょう。過不足のない投資につながると、編集部ではみています。
予知保全の事例を自社のケースに落とし込む
事例をそのまま自社に当てはめても、同じ成果が出るとは限りません。ここでは、事例から得た知見を自社の設備に置き換えるための手順を4つに分けて整理しました。上から順に確認すると、検証の対象と進め方を具体化しやすくなります。
止まったときの損失が大きい設備を洗い出す
最初に確認したいのは、どの設備が止まると損失が大きいかです。化学プラントのリボイラーや食品工場の冷凍機が、その代表例です。停止が工程全体や製品ロスに波及する設備を、候補に挙げましょう。
あわせて、その設備の劣化が振動・温度・電流などの信号に現れやすいかも確かめましょう。壊れても代替が効く安価な設備は、予知保全の対象として優先度が下がります。損失の大きさと予兆の出やすさの両方を満たす設備から選ぶと、効果を確認しやすくなるはずです。
捉えたい異常とデータの取り方を決める
次に、どの異常を捉えたいのかを具体的にします。閉塞・ベアリング劣化・環境逸脱など、対象によって必要なデータの種類は変わります。
異常が決まったら、センサーの取り付け位置とサンプリング周期を検討してください。この2つが、検知精度を大きく左右するためです。軸受の異常を捉えたいのに、振動を拾いにくい位置にセンサーを付けると予兆は信号に現れません。既存PLCのデータで足りるのか、センサーの追加が要るのかも、この段階で見極めておきます。
検知手法と導入の範囲を選ぶ
データの見通しが立ったら、検知手法と導入の範囲を選びます。故障データが少ない設備では、正常データから学習する方式が使いやすいでしょう。多数の機器が連動する設備群なら、センサー値どうしの関係性を見る方式も候補になります。
処理の場所は、求めるリアルタイム性と設備台数で判断するとよいでしょう。資産管理や生産可視化まで一体で進めるなら、EAMや現場全体を扱う製品も比較対象に含めます。導入後の拡張を見通しやすくなるためです。
合格基準を決めて小さく検証する
最後に、対象を重要設備に絞って小さく検証(PoC)します。検証を始める前に、どの精度で何を検知できれば本番に進むかという合格基準を決めておきましょう。
精度だけでなく、警報が出たときに誰が一次対応するかも検証の対象に含めます。運転条件によって正常の範囲が変わる設備では、代表的な条件から始めると無理がありません。製品の条件をそろえて比較したい場合は、予知保全システムの選び方の解説記事も参考になります。
事例からわかる成功事例の共通点
業種をまたいで事例を並べると、成果が出た現場には共通する条件が見えてきます。設備の選び方、データ、体制、進め方の4つに整理しました。
- 予兆が現れやすい設備を選んでいる
- 正常データを十分に確保している
- 警報に対応する運用体制を決めている
- 重要設備から段階的に広げている
予兆が現れやすい設備を選んでいる
成果が出ている事例の多くは、振動・温度・電流に予兆が現れやすい設備を対象にしています。化学プラントの熱交換器やポンプ、食品工場の冷凍機、加工現場の加工機やベアリングが代表例です。
いずれも、劣化が物理的な信号として現れやすい設備といえます。反対に、予兆が信号に出にくい突発破損や、壊れても代替が効く安価な設備は優先度が下がります。止まったときの損失が大きく、状態が数値に現れる設備から選んでいる点は、各事例に共通する特徴です。
正常データを十分に確保している
事例で使われている手法の多くは、故障データではなく正常データから「いつもの状態」を学習します。ImpulseやNECのインバリアント分析も、この考え方にもとづく手法です。
故障の事例を集めなくても始められる一方で、正常データの質と量が精度を左右します。負荷の高低・季節変動・加工条件が変われば、正常の範囲も変わります。さまざまな運転状態のデータを学習させている現場ほど、誤報を抑えやすいでしょう。警報への信頼も保ちやすくなります。
警報に対応する運用体制を決めている
予兆を検知できても、警報が出てから誰がどう動くかが決まっていなければ効果は出ません。成果が出ている事例では、一次対応者と、緊急度ごとの連絡先まで設計されていました。
i-BELTのように課題特定から運用までを支援するサービスもあります。Lumadaは、対処策まで提示する処方的保全を掲げています。検知の先の対応まで現場が回る点が、こうした仕組みの利点です。運用設計を後回しにすると、警報が放置されて使われなくなる恐れがあります。
重要設備から段階的に広げている
いきなり全設備に展開せず、損失の大きい重要設備から検証を始めている点も共通しています。日本製鉄も、原因究明に長期間を要したトラブルを題材に予兆検知を検証しました。
合格基準を決めたPoCで精度と運用の両面を確かめ、そのうえで本番展開へ進む流れです。予防保全から切り替える場合も、いきなり定期交換をやめる必要はありません。モデルが信頼できると確認できるまで並行運用すれば、移行期の故障リスクを抑えられます。
事例から学ぶつまずきやすいポイント
事例の効果だけを見て導入を急ぐと、思わぬところでつまずく場合があります。よく見られる4つの点を、回避策とあわせて整理しました。
- 効果が見えるまでに投資が先行する
- データの取り方が異常の検知に合っていない
- すべての故障を防げると期待してしまう
- 誤報や経年変化で運用が定着しない
効果が見えるまでに投資が先行する
導入初期は、センサー・通信・分析基盤への投資が先に発生します。効果が数字で見えるまでには時間がかかり、対象設備の選定を誤ると投資の回収が難しくなります。
公開事例の数字は、対象設備や条件が整った前提での実績です。どの現場でも同じ結果が出るわけではありません。費用対効果は、止まったときの損失が大きい設備ほど出やすくなります。
回避策:止まったときの損失が大きい設備に対象を絞り、費用対効果を見込みやすい範囲から始めましょう。
データの取り方が異常の検知に合っていない
センサーの取り付け位置やサンプリング周期が適切でないと、予兆が信号に現れず精度が上がりません。振動を拾いにくい位置にセンサーを付けると、劣化が進んでも信号に表れない場合があります。
回避策:導入前に、どの異常を捉えたいかを明確にしてください。そのために、どこでどの粒度のデータを取るべきかを設計しておくと後戻りを防げます。既存PLCのデータで足りるのか、センサーの追加が要るのかもあわせて確認しましょう。運転条件の変化が大きい現場では、幅広い条件のデータも必要です。
すべての故障を防げると期待してしまう
予知保全は、すべての故障を防ぐ仕組みではありません。予兆が信号に現れにくい突発破損や、想定していなかった故障モードは捉えきれない場合があります。
過度な期待を持ったまま導入すると、成果が出ても評価されにくくなるでしょう。
回避策:導入の目的を「故障ゼロ」ではなく、突発停止の削減と保全コストの最適化に置きます。従来の点検や予防保全と組み合わせ、予兆が出る故障に強い手法として位置づけると期待とのずれを防げます。
誤報や経年変化で運用が定着しない
過検知が続くと、現場が警報を信用しなくなります。過検知とは、正常な状態を異常と判定する誤報のことです。設備は経年で正常状態そのものが変化するため、モデルを放置すると誤報が増えていきます。
運用が属人化し、担当者が異動すると使われなくなるケースも見られます。
回避策:しきい値を運用しながら調整し、誰が一次対応するかを決めておきましょう。モデルを見直す担当と頻度をあらかじめ定めておくと、長く使い続けやすくなります。
まとめ
予知保全の事例は、化学プラント・製鉄・食品・製薬・自動車部品など幅広い業種に及びます。成果が報告されているのは、止まると損失が大きい現場です。共通する効果は、突発停止の削減、過剰な点検・部品交換の抑制、熟練者の判断の標準化です。
成果が出た現場は、予兆の出やすい設備を選び、正常データを確保し、警報への対応体制を決めていました。一方で、効果は設備の選び方とデータの質に左右され、すべての故障を防げるわけではありません。重要設備に絞った小さな検証から始めるとよいでしょう。
製品の比較は予知保全システムの比較記事で扱っています。条件での絞り込みには、予知保全・故障予測システムのカテゴリページが役立ちます。
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よくある質問
Q予知保全の導入事例はどんな業種で多いですか?
連続運転で止まると損失が大きく、振動・温度・電流に予兆が現れやすい回転機を持つ業種で多く見られます。化学プラント・製鉄などの装置産業、冷凍機やコンプレッサーを抱える食品工場、加工機やベアリングを多用する自動車部品の加工現場が代表例です。製薬では空調・温調などのユーティリティ設備が主な対象になります。
Q予知保全の事例ではどんな効果が報告されていますか?
突発停止の削減、過剰な点検・部品交換の抑制、熟練者の判断の標準化という効果が業種をまたいで共通して報告されています。ただし効果は対象設備の選定とデータの質に左右され、すべての故障を防げるわけではありません。
Q予知保全を導入する際にまず何から始めればよいですか?
いきなり全設備に展開せず、止まったときの損失が大きく予兆の出やすい重要設備に絞って小さく検証(PoC)するのが定石です。検知精度に加えて、警報が出てから誰が一次対応するかという運用の動線まで確かめ、合格基準を決めてから対象を広げます。
