予知保全の導入事例|化学・食品・製薬・自動車など業種別に効果と手法を整理
予知保全の公開導入事例を化学・食品・製薬・自動車部品・製鉄など業種別に「課題→採用手法→効果」で整理し、成果が出る共通パターン(設備種別・データ量・体制・段階導入)と導入の注意点まで解説した事例記事。

予知保全の導入事例を業種別に探している方に向けて、化学プラント・食品工場・製薬・自動車部品・製鉄など、公開情報で確認できる実際の取り組みを整理します。各事例は「どんな課題があり」「どの手法を採用し」「どんな効果が出たか」を同じ切り口でまとめ、自社の設備に当てはめて読めるようにしています。
事例を並べると、成果が出た現場には共通したパターンが見えてきます。記事の後半では、そのパターンと、導入でつまずきやすい注意点もあわせて整理します。
結論:予知保全で成果が出ているのは、止まると損失が大きく、かつ振動・温度・電流などに予兆が現れやすい回転機や連続運転設備を持つ現場です。多くの事例で、突発停止の削減と過剰な点検・部品交換の抑制、そして熟練者の判断の標準化という効果が共通して報告されています。一方で、効果は対象設備の選び方とデータの質に大きく左右されるため、重要設備に絞った小さな検証から始める進め方が現実的です。
この記事でわかること
化学プラントでの予知保全事例
化学プラントは、連続運転で止まると損失が大きく、予知保全の費用対効果が出やすい代表的な業種です。蒸留塔・熱交換器・ポンプ・コンプレッサーといった設備が多数連動し、一箇所のトラブルが工程全体の停止につながるため、予兆を早期に捉える価値が高くなります。
公開されている事例として、JFEケミカルが蒸留塔の熱交換器(リボイラー)の閉塞予兆検知に、ブレインズテクノロジーのAI異常検知ソリューション「Impulse」を採用した取り組みがあります。
課題は、リボイラーの閉塞に対してこれまで事後保全的な対応しか取れず、トラブルが起きてから洗浄停止するしかなかった点でした。施策として、運転データから「いつもの状態」を学習し、閉塞につながる予兆を捉えるモデルを構築しています。Impulseは、故障データがなくても正常データだけから異常を検知できるアルゴリズムを持ち、振動・温度・電流に加えて画像や音声も扱えるマルチモーダル分析に対応する点が特徴です。
効果として報告されているのは、設備の洗浄・停止タイミングを事前に明確化できるようになったことです。突発的な閉塞トラブルに振り回されず、計画的に停止整備へ切り替えられる状態に近づいたといえます。化学プラントでは、こうした「事後対応しかできなかった設備を、予兆段階で計画停止に置き換える」形での効果が出やすい傾向があります。閉塞や詰まりのように、進行が緩やかで信号に変化が現れやすいトラブルは、正常データからのずれを捉える方式と相性が良く、洗浄計画を生産計画に合わせて組めるようになる点が現場の利点になります。
同じ装置産業では、NECのインバリアント分析による設備状態監視も大規模に実証されています。日本製鉄は、製鉄所の設備状態監視基盤の構築に向けて「NEC Advanced Analytics - インバリアント分析」を採用し、東日本製鉄所君津地区で2021年に長期運用テストを開始しました。
この事例では、原因究明に10日間を要した解決の難しいトラブルについて、オフラインデータを用いた検証で事前に予兆を検知できることを確認したと公表されています。インバリアント分析は、多数のセンサー値どうしの関係性(不変の相関=インバリアント)の崩れを異常とみなす手法で、100msごとのリアルタイム計測データから予兆を自動検知できる点が特徴です。多数の機器が連動する製鉄・化学のような大規模設備群と相性の良いアプローチといえます。
編集部コメント:化学プラント・製鉄のような装置産業は、止めると損失が極端に大きく、しかも多数の回転機・配管系が連動するため、単一指標の閾値監視では予兆を取りこぼしやすい現場です。複数データの関係性を見るインバリアント分析や、正常データのみから学習するImpulseのような手法が効く領域で、まずは過去に長時間トラブルが起きた特定設備から検証を始めた事例が成果につながっています。
食品工場での予知保全事例
食品工場では、冷凍機・コンプレッサー・ポンプ・排気ファンといった回転機の停止が、製品ロスや品質問題、ラインのチョコ停に直結します。温度管理が品質と安全に関わるため、設備の稼働状態と環境データの両方を監視する取り組みが進んでいます。
富士電機などが公開している食品工場向けの活用例では、モーター・ポンプ・コンプレッサー・減速機といった回転機器に振動センサーを取り付けて常時モニタリングし、AIに正常稼働時のデータパターンを学習させて異常を検知する構成が紹介されています。
課題は、突発的な設備停止による製品ロスと、原因のわからないチョコ停・点検工数の多さでした。施策として、振動・温度などの状態量をIoTセンサーで収集し、現場に近い場所で診断する仕組みを取り入れています。効果としては、排気ファンやベアリングの故障予兆を早期に捉えて突発停止を回避し、点検作業の工数を削減できたといった成果が報告されています。
食品工場特有の論点として、HACCP対応のために製造ラインや保管倉庫の温度・湿度をIoTセンサーで24時間監視し、基準値を超えたら即座に管理者へ通知する運用が併用されることがあります。設備の予兆監視と、品質・衛生のための環境監視が同じデータ基盤の上で動くため、保全と品質管理を一体で進めやすい点が特徴です。冷凍機やコンプレッサーの不調は、製品温度の逸脱という形で品質問題に直結するため、設備の予兆を早く捉えることが、そのまま廃棄ロスの抑制につながります。
一方で、食品工場は洗浄や温度変化が多く、運転条件によって「正常の範囲」が変わりやすい環境です。季節やライン切り替えで状態が変わるため、さまざまな運転状態のデータを学習させておかないと、正常な変動を異常と誤検知しやすくなります。導入初期は誤報の調整に手間がかかる前提で、しきい値やモデルを運用しながら見直す体制を用意しておくと定着しやすくなります。
編集部コメント:食品工場は、止まったときの製品ロスと衛生・品質リスクが両方かかる点で予知保全の動機が強い現場です。冷凍機やコンプレッサーなど予兆が振動・温度に出やすい回転機から着手し、HACCPの環境監視と同じ基盤に乗せられると投資が活きやすくなります。運転条件の変動が大きいぶん、誤報の調整工数を初期コストとして見込んでおく現場が現実的に運用に乗せています。
製薬・医薬品工場での予知保全事例
製薬・医薬品の製造では、設備の停止やコンディションのばらつきがそのまま品質・規制適合(GMP)の問題に直結します。バリデーションされた製造環境を維持する必要があるため、設備が「いつもと違う」状態に入る前に検知したいニーズが強い業種です。
製薬分野では、空調・温調・無菌環境を支えるユーティリティ設備(冷凍機・空調機・ポンプ・コンプレッサー)の予兆監視が代表的な適用先になります。これらは止まると製造そのものが止まるだけでなく、環境逸脱による製品の品質リスクを生むため、予知保全の対象として優先度が高くなります。
課題は、規制対応のために逸脱を未然に防ぎたい一方で、設備トラブルの予兆を熟練者の経験に頼っていた点です。施策としては、回転機の振動・温度・電流を監視し、正常データから外れる動きを捉えるアプローチが中心になります。汎用の予兆検知ツールでは、ソニーネットワークコミュニケーションズの「Prediction One」のようなノーコードAI予測ツールが、故障予測を含む幅広い予測用途に使われています。予知保全専用ではないものの、設備データから故障の起きやすさを予測する用途で製造業に活用されている製品です。
効果として期待されるのは、環境逸脱や設備停止の予兆を事前に捉え、計画的な整備に切り替えることで、品質リスクと突発停止の両方を抑えることです。製薬の製造は一度ラインを止めると再稼働や洗浄・バリデーションのやり直しに時間がかかるため、突発停止を計画停止へ置き換えられる価値が他業種より大きくなる傾向があります。設備の予兆を在庫・作業計画と結びつけたい場合は、IBMの「Maximo Application Suite」のようにwatsonx搭載のAIで予知保全と資産管理を統合できるEAM系の製品も選択肢になります。
ただし製薬では、予知保全システム自体がコンピュータ化システムバリデーション(CSV)の対象になりうるため、検知ロジックや運用手順を文書化し、変更管理に乗せる手間が他業種より大きくなる点には注意が必要です。モデルを更新するたびに妥当性の確認が必要になることもあるため、運用しながらモデルを頻繁に作り替える前提の手法とは相性に注意が要ります。導入の際は、検知の仕組みだけでなく、規制対応に耐える運用設計まで含めて設計しておくと後戻りを防げます。
編集部コメント:製薬・医薬品は「止めない」ことに加えて「規制適合を崩さない」ことが要件になるため、予兆検知の精度そのものより、検知後の運用と文書化の設計が成否を分けます。まずはユーティリティ設備など品質への影響が大きく予兆の出やすい設備から、ノーコードの予測ツールや汎用の異常検知で小さく検証し、規制対応の運用に乗るかを確かめる進め方が向いています。
自動車部品・加工現場での予知保全事例
自動車部品の加工現場では、マシニングセンタなどの加工機や、破損の多いベアリングを持つ設備の停止が、ライン全体の生産機会損失に直結します。1分の停止でも損失が大きいため、突発停止を防ぐ予知保全のニーズが高い業種です。
オムロンは、製造現場データ活用サービス「i-BELT」の第1弾として「設備の異常予兆監視サービス」を提供しています。マシニングセンタなどの加工機や、破損の多いベアリングを有する製造設備を対象に、異常動作につながるデータを収集・分析して早期に予兆を発見し、突発的な生産ライン停止を防ぐサービスです。
i-BELTの特徴は、AI搭載コントローラによるエッジでのリアルタイム異常検知にあります。PLC・センサー・AIが一体となり、制御周期と同期した高速処理で異常を捉えられるため、瞬時の反応が求められる加工機に向いた構成です。i-BELTは課題特定からAIモデルの運用までを支援するトータルサービスとして提供されており、データ活用とワークショップを通じてリードタイム短縮や生産性向上につなげた事例も公開されています。
自動車製造のように設備群が大規模な現場では、シーメンスの「Senseye Predictive Maintenance」のような工場全体を一括監視するプラットフォームも採用が進んでいます。SenseyeはMindSphere/Insights Hubとネイティブ統合し、既存PLCのデータを活用して追加センサーなしで予知保全を実現できる設計が特徴です。グローバルの各業種で、計画外ダウンタイムや保全コストの削減が報告されています。
一方で、加工現場の予知保全には、加工内容や工具・ワークの違いで設備の状態が変わりやすいという難しさがあります。同じ設備でも加工条件が変われば正常の範囲が変わるため、条件ごとにモデルを分けたり、条件情報もあわせて分析したりする工夫が必要になります。条件の多い現場ほど、最初から全条件を網羅しようとせず、代表的な加工条件から検証を始める進め方が無理がありません。
編集部コメント:自動車部品の加工現場は、瞬時の異常反応が要るためエッジAIのi-BELTのような構成が向く一方、設備台数が多い完成車・大規模工場では既存PLCデータを活かして一括監視するSenseyeのようなプラットフォームが効きます。設備の規模と、リアルタイム性をどこまで求めるかで、エッジ寄りかクラウド寄りかを選ぶと判断しやすくなります。
生産現場全般・設備保全の事例
特定の装置だけでなく、工場全体の生産性と保全を一体で底上げした事例もあります。日立製作所の大みか事業所は、多品種少量生産の現場で製造改革を進め、2020年に世界経済フォーラム(WEF)のライトハウス(先進工場)に選定されました。
課題は、多品種少量生産で「人」と「もの」の動きが複雑になり、現場全体の状態を把握しづらかった点でした。施策として、約8万個のRFIDタグと約450台のRFIDリーダーで作業や物の流れを細かく収集し、既存の工程・生産管理システムのデータと組み合わせて、生産現場全体の動きをリアルタイムに可視化する仕組みを構築しています。これらのデータ基盤は「Lumada Manufacturing Insights」として提供され、設備の予知保全やOEE(設備総合効率)の可視化にも活用されます。
効果として、代表製品の生産リードタイムを50%削減したと公表されています。Lumadaは、異常の検知だけでなく対処策まで提示する処方的保全(プレスクリプティブアナリティクス)を掲げ、日立自身の製造拠点での実証ノウハウを反映している点が特徴です。
設備保全を起点に資産管理まで広げる場合は、IBMの「Maximo Application Suite」やSAPの「Intelligent Asset Management」のようなEAM(資産管理)系の製品もあります。これらは予知保全機能に加えて、資産・保全・在庫・作業計画を一元管理できるため、大規模な設備群を抱える製造業やインフラで採用されています。予知保全を単体機能としてではなく、保全業務全体の仕組みの一部として組み込みたい場合に向く選択肢です。
自社の設備や保全体制にどの製品が合うかを具体的に見比べる段階に入ったら、予知保全・故障予測システムのカテゴリページで、対象設備や導入形態などの条件から製品を絞り込み、比較できます。
編集部コメント:大みか事業所のように「設備の予兆検知」を生産現場全体の可視化の一部として進めた事例は、保全単体ではなくOEEや工程改善まで含めて成果を出しています。予知保全を点で導入するのか、資産管理(EAM)や生産可視化と一体で進めるのかは、自社が解きたい課題の広さで決めると過不足のない投資になります。
予知保全が成果を出すパターン
業種をまたいで事例を並べると、成果が出た現場にはいくつか共通の条件が見えてきます。導入の成否を分ける観点を、設備種別・データ量・体制・段階導入の四つに整理します。
予兆が現れやすい設備種別を選んでいる
成果が出ている事例の多くは、振動・温度・電流に予兆が現れやすい回転機を対象に選んでいます。化学プラントの熱交換器・ポンプ、食品工場の冷凍機・コンプレッサー、自動車部品の加工機・ベアリングはいずれも、劣化が物理的な信号として現れやすい設備です。逆に、予兆が信号に出にくい突発破損や、壊れても代替が効く安価な設備は、予知保全の対象として優先度が下がります。「止まったときの損失が大きく、かつ状態が数値に現れる」設備から選ぶことが、最初の分かれ目になります。
正常データを十分に確保できている
事例で使われている手法の多くは、故障データではなく正常データから「いつもの状態」を学習する方式です。ImpulseやNECのインバリアント分析がこの考え方にあたり、故障の事例を集めなくても始められる一方で、正常データの質と量が精度を左右します。運転条件(負荷の高低・季節変動・加工条件)が変われば正常の範囲も変わるため、さまざまな運転状態のデータを学習させておくことが誤報の抑制につながります。データが偏っていると、正常な変動を異常と誤検知し、現場が警報を信用しなくなる原因になります。
警報に対応する運用体制を決めている
技術的に予兆を検知できても、警報が出てから誰がどう動くかが決まっていなければ効果は出ません。成果が出ている事例では、検知の精度だけでなく、誰が一次対応し、どの緊急度で誰に伝えるかという運用の動線まで設計されています。i-BELTのように課題特定から運用までを支援するサービスや、Lumadaのように対処策まで提示する処方的保全が評価されているのは、検知の先の「対応」まで含めて現場が回るためです。導入時に運用設計を後回しにすると、警報が放置されて使われなくなりやすくなります。
重要設備に絞って段階的に広げている
いきなり全設備に展開するのではなく、損失の大きい重要設備から検証を始め、効果と運用を確かめてから対象を広げる進め方が共通しています。日本製鉄が特定のトラブル設備での検証から始めたように、合格基準を決めた小さな検証(PoC)で精度と運用の両面を確かめてから本番展開するのが定石です。予防保全から切り替える場合も、いきなり定期交換をやめず、予知保全のモデルが信頼できると確認できるまで並行運用する進め方であれば、移行期の故障リスクを抑えられます。
予知保全の導入で注意すべき点
事例の効果だけを見て導入を急ぐと、つまずきやすいポイントがあります。注意点を理解したうえで進めると、投資が回収しやすくなります。
第一に、導入初期はセンサー・通信・分析基盤への投資が先に発生し、効果が数字で見えるまでに時間がかかります。費用対効果は対象設備の「止まったときの損失」が大きいほど出やすいため、設備の選定を誤ると投資が回収しにくくなります。公開されている削減率や効果の数字は、対象設備や条件が整った前提での実績であり、どの現場でも同じ結果が出るわけではない点を踏まえておく必要があります。
第二に、データの質が課題になりやすい要素です。センサーの取り付け位置やサンプリング周期が適切でないと、予兆が信号に現れず精度が上がりません。軸受の異常を捉えたいのに振動を拾いにくい位置にセンサーを付けると、劣化が進んでも信号に表れないといったことが起こります。導入前に、どの異常を捉えたいのか、そのためにどこでどの粒度のデータを取るべきかを設計しておくことで、後戻りを防げます。
第三に、予知保全はすべての故障を防ぐわけではありません。予兆が信号に現れにくい突発破損や、想定していなかった故障モードは捉えきれません。導入の目的を「故障ゼロ」ではなく「突発停止の削減と保全コストの最適化」に置くと、過度な期待による失望を避けられます。従来の点検や予防保全を完全に置き換えるものではなく、予兆が出る故障に強い手法として位置づけるのが現実的です。
第四に、運用が属人化したり、そもそも運用に乗らなかったりするリスクがあります。過検知(正常を異常と判定する誤報)が続くと現場が警報を信用しなくなるため、しきい値を運用しながら調整し、誰が一次対応するかを決めておくことが定着の条件になります。設備は経年で正常状態そのものが変化するため、一度作ったモデルを放置すると誤報が増えます。定期的にモデルを見直す担当と頻度を決めておくことが、長く使い続けるための前提です。
まとめ
予知保全の事例を業種別に見ると、化学プラント・食品工場・製薬・自動車部品・製鉄など、止まると損失が大きく予兆がデータに現れやすい設備を持つ現場で成果が出ています。共通するのは、突発停止の削減・過剰整備の抑制・熟練者の判断の標準化という効果です。
成果を出している事例には、予兆の出やすい設備を選ぶ・正常データを十分に確保する・警報への対応体制を決める・重要設備から段階的に広げる、という共通パターンがありました。一方で、効果は設備選定とデータの質に左右され、すべての故障を防げるわけではない点も押さえておく必要があります。
自社のどの設備にどの手法・製品が合うかを見極める段階に入ったら、予知保全・故障予測システムのカテゴリで、対象設備や分析手法・導入形態の条件から製品を絞り込み、比較できます。
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